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「とにかく、今帰ったら絶対後悔すると思う。だから頑張ろうぜ」
「……そうだな」
「っしゃ!それじゃあそろそろいくか!」

流れるように過ぎ去っていく景色を見ながら、それがきれいだなあとか思う余裕は全くなくて、ひたすら僕らはペダルをこいだ。

「なあ、おまえってなんで医大受けたんだ?」
「ブラックジャックにあこがれたから」
「うはっ!ミーハーだな!」
「うっせ!そういうお前はどうなんだよ」
「俺もそうなんだよ実は。かっこいいよなブラックジャック」
「でも落ちた」
「……おう」
「浪人したとして、もう一度落ちたら、なんかいも浪人しても受からなかったら。俺どうなるんだろう」
「わからねえ」
「やっぱり夢なんて捨てて無難に普通の会社のサラリーマンやった方がいいのかな」
「……」
「俺、どうしたらいいんだろう」
「……う、うがあぁああぁ!そんなこと言うなよ不安になるじゃねえか!ほら!休憩終了!海まで行くぞ!」

しにそうになりながらも、必死にペダルをこぎ続ける。
理由なんてない。突発的に思った「海までいこう」という目標。
海は本当に遠くて。全然近づけないと思ってた。
出発したのは昼だったのに、もう太陽が沈もうとしている。
でも、川幅は少しづつ、少しづつだけれど、広くなってきているのにあるとき気がついた。
「おい!さっきの標識見たか!?」
アイツの顔が輝いてる
「見てなかった!」
「後10キロで太平洋だ!ラストスパート行くぞ!」

目の前に広がる太平洋は、夕日に照らされていて、思っていたより全然きれいだった。
たどり着いたという達成感が身体の疲労すら素晴らしいものに思わせる。
最後の方は、目の前に広がっていく海が見えて、テンションの上がった僕らはバカみたいに全力で立たちこぎをした。
ふと後ろを振り返る。家がどこにあるかなんてわからないくらい遠くまで来たんだなと改めて実感する。
ただ海に来ただけなのに、意味もなく、目的もなく来たのに。なんだか涙で視界がゆがんできた。
果てしなく遠い気がして、たどり着けないと思って、何度も途中で帰ろうとしたけど、たどり着くことができた。どんな道も、前に進み続ければ、いつかはたどり着ける。
たどり着いた瞬間、いままでの全ての苦労が素晴らしいものに思えた。
そして、ここまで来てよかったと思った。
「なんか、わかっちゃったな」
「だな」
作品名:progress 作家名:伊織千景