ゼロ
桃の実
桃の実は人を裁くと言う
僕が試験に落ちたとき
確かに桃の実はわらっていた
お前本当は桃の実じゃないだろう
僕はそいつをもぎ取り
皮をむいてみた
白くて柔らかい果肉があった
食べてみたら甘かった
そこまで徹底して僕をだまそうというのか
桃の実の置かれた地点で
いくつもの曲線が交わっている
この曲線はあの日の僕の痛み
この曲線は誰かの失恋
この曲線は自動車の発明
僕は悲しくなって泣いた
だって無関係なものが
たくさん交わりすぎているじゃないか
これじゃ戦争みたいだ
桃の実が
収穫され 選別され 輸送され
店舗に並び 購入され 食べられる
その過程で描いた空間的な軌道を
つぶさに思い描く
広大な空間を貫く巨大なスケッチ
こんな作品が桃の実の数だけあるんだね
桃の実の
飛び立ちそうな重さ
輝きそうな影
滑り出しそうな摩擦
青を呼ぶ赤さ
これらの均衡を食べようとして
僕は桃の実を取り上げる
すると重さはあくまで重く
赤さはあくまで赤くなってしまい
おびただしい偏りに
僕は食欲をなくした