小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕たちは何故かプロレスに憧れた

INDEX|1ページ/8ページ|

次のページ
 
その1

受験を控えた中三の9月。僕達三人のそれは始まった。きっかけは親友のマツの

「宮沢道晴って知ってる?」

の一言だった。詳しく話を聞くとプロレスのスーパースターで今は試合中の事故で死んでしまって生きてない人らしい。僕達世代には知らない名前だ。大体プロレス自体詳しく無い僕にはどんな人かも想像がつかない。そんな事もあって僕達はマツの家でDVDを見る事にした。もちろんプロレスの。

「これさ兄貴が持ってたんだよ。見たらサトシもヒロもビックリするぜ?」

マツの家のマツの部屋に着くとマツは自信ありげにそう言った。サトシとは僕の名前だ。ヒロとはもう1人の親友の名前だ。二人とは幼なじみで幼稚園から一緒だ。高校は志望校が違う為バラバラになるみたいだ…そして僕らはプロレスと宮沢道晴を初めて見た。緑色と銀色の長ズボンみたいなのを履いているのが宮沢らしい。でも僕は違う所に注目した。それは宮沢と闘っていたオレンジ色のパンツを履いた大橋とかいう選手がやったムーンサルトプレスとかいう飛び技だった。

「こんなデカイ人がこんな事出来るんだ」

思わず僕はそう呟いていた。

「プロレスってスゲーだろ?」

とマツは自慢気に言い放った。マツの顔はキラキラに輝いていた。少しムカついたが何故か嬉しかった。

「ああ、スゲーな。プロレスって」

横を見ると無口なヒロも感動しているようだった。それから僕達は毎日マツの家にプロレスのDVDを見に行った。マツの兄貴はかなりプロレスオタクらしく色々なDVDがあった。「メジャー」とか「インディー」とか「ルチャ」とか「アメプロ」とか「デスマッチ」とか「ハードコア」とか「女子プロ」とか「ハッスル」とか「マッスル」とか「ローカルインディー」とか「フォール」とか「ブレーンバスター」とか「バックドロップ」とか「ラリアット」とか「ヘッドロック」とか「ケンカキック」とか「シャイニングウィザード」とか「エルボー」とか「ビッグブーツ」とか「グランド」とか「バンプ」とか「ロープワーク」とか「リープフロッグ」とか「雪崩式」とか「垂直落下式」とか「掟破り」とかこれまで聞いたことが無く恐らく人生に必要の無い単語を僕達はスポンジが水を吸うよりも、世界トップクラスのF1ドライバーが運転するF1マシンよりも速く吸収していった。

僕達は何故かプロレスに憧れた。


その2

各々が志望の高校に進学し高校二年生になっていた。僕達は月に何回か顔を会わせるくらいだったが顔を会わせると

「あの試合見た?」

と誰からともなく喋りだしプロレス談義に花が咲くくらいのプロレスオタクになっていた。マツはプロレス観戦が趣味になった為に、ヒロはプロレス雑誌やプロレス関連の本やDVDを買い漁る為に学校が終わるとバイトに勤しむようになっていた。僕は見るよりもやる方に興味をもったので小中と続けていた野球を辞め、高校進学と同時にレスリングをやりはじめた。勿論、将来はプロレスラーになりたいのだがそれは誰にも言えないまま高校生活を送っていた。レスリング部の練習は地獄の様だった。しかもそれが毎日続くのだ。プロレスラーになるという夢がなければ耐えられない。そんな僕を癒してくれたのは愛しの彼女…ではなくプロレスだった。そしてマツとヒロと三人でプロレスについて語る時間だった。それだけ僕達にとってプロレスは重要なモノになっていた。高校三年のある日の部活帰りにコンビニに寄ったらマツがいた。店員として。あまりに似合わない派手なウェアのマツを見て僕は思わず笑ってしまった。

「店員見て笑うってどんだけ失礼なんだよ?」
とマツは笑いながら僕に言った。僕は

「似合わなさすぎだよ」
と苦笑いしながら言った。
「また新しくバイトやりだしたの?」
「ああ」
「働き者だな」
「お前みたいに部活動に勤しんでないからな」
「いくら勤しんでも県内でも底辺レベルだしそれにもうすぐ引退だし」
「まあ打ち込めただけいいんじゃない?」
「じゃあバイトも部活も一緒だな」

そんなどうでもいい会話をした僕はプロレス雑誌を手に取りレジのマツに渡した。僕は「安くしろよ」と無理な事を言ってマツを困らせてから僕はコンビニを出た。コンビニを出てすぐの僕に派手なウェアのマツが追いかけてきた。

「最近、やたらと鍛えてるみたいだけどまさかプロレスラーになる気か?」
「何で?」
「だってレスリングなら減量しなきゃいけないじゃん?なのにサトシ明らかに身体がデカくなってんだもん」
「分かる?」
「伊達にプロレスオタクじゃないんだよ」
「まあね」
「……プロレスってさ強いとか弱いだけの競技じゃないからさ。強さ以外の何かが必要だよ」
「何だよ急に」
「とりあえず大学にでも進学して学生プロレスでもやってみたら?」
「お前は進路指導の先生かよ」
「まあプロレスオタクの意見として参考にしてみたら?」
「まあ親も進学してほしいみたいだし丁度いいかも…」
「たまには親孝行してあげなよ」
「何様なんだよ」

僕は笑いながら家に向かった。なんでマツがそんな事を言ったのかを知るのはもう少し後の事だった。家に着いた僕は両親に大学に進学したいという気持ちを伝えた。両親は顔を見合わせてから僕がビックリするくらい喜んだ。僕は少し嬉しくなった。そして次の日から僕の受験勉強が始まった。戦争と言うほど過酷ではなかったがそれなりに勉強浸けになった僕はしばらくプロレスと距離を置くことになった。


その3

僕はどうにか浪人することなく進学することに成功した。といっても地元の大学でも中の下くらいの学力を誇る大学だ。別に誇れるような大学じゃないが両親は喜んでくれた。それだけで僕は嬉しかった。大学進学後はマツのアドバイス通り学生プロレスをやるべくプロレス研究会に入る事にした。だが所詮はサークル活動。僕が求めていたような激しいプロレスはやっていなかった。でもとても楽しかった。プロレスに必要なバンプとか基本ムーブやショーマンシップやセルフプロデュースを学ぶ事が出来た。そういう意味では有意義だった。そして3年生になったある日僕は学生プロレスのチャンピオンに挑む事になった。僕と同い年のチャンピオンは僕と同じ様にプロを目指しているらしく本格派として知られていた。学生プロレスの世界はいくつかの大学が加盟している学生プロレス連盟というのがありその連盟が興行的な事をしたりするのだ。勿論、自分達で文化祭などで試合をやったりもするがそんなものは言うなれば祭りの余興みたいなものだ。僕が本気でプロレスが出来るのが連盟主催興行だった。その連盟の最高峰ともいえるシングルのタイトルに挑戦出来るのは僕にとっ
ては夢のようだった。僕はそのタイトルマッチにマツとヒロを呼ぶ事にした。マツは高校卒業後は地元の印刷所に就職し働いていた。ヒロは僕と同じ大学に通っている為よく遊んでいた。ヒロは何度となく試合を見に来てくれて何度なくアドバイスをくれた。そういう事もあってまずはヒロにタイトルマッチが決まった事を伝えた。

「今度さ、連盟のシングルのタイトルに挑戦する事になった」