萌葱色に染まった心
朝一番で徹はバイクの後ろに荷物を縛りつけると、ヘルメットをかぶり、革のグローブをはめた。
「じゃあ、行って来ます」
見送りをする二人に、徹は笑顔で言った。
「行ってらっしゃい」
「どこに向かうつもりなんだ?」
「南かな? 東海道を通って京都に行って、その後は山陽道を通って下関へ。関門海峡を渡ったら、佐賀県を始めとして長崎とか、熊本とかぐるっと回って今度は日本海側を北上するつもり」
「ほう。それは楽しそうだな」
「たまには連絡頂戴ね」
「うん。分かってる」
「事故とか起こしたり、トラブッたりしたら、必ずすぐ連絡をよこすんだぞ」
「うん」
「よし、じゃあ行って来い」
「行って来ます」
徹はバイクのエンジンを駆けた。けたたましいエンジン音と共に、バイクは発進の準備が整った。徹は一度名残惜しそうに振り返ると、左右の安全を確認して出発した。琴子は徹の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「思ったよりもあっさり行っちゃったね」
「ああ、そうだな」
「大丈夫かな?」
「可愛い子には旅をさせろって言うし、何かあれば連絡よこすさ」
「まあ、あなたはさっぱりしすぎね」
「そんなことないよ。アイツが戦いに巻き込まれたりしないか、不安で仕方がない」
「そうね。せめて、戦いのことだけは知らずにいてほしいね」
二人は出発したばかりの徹の無事を祈るのだった。
完