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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕のお父さん

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「父さんってやっぱ毎日泳ぐの?サメだし疲れない?」

「そりゃ疲れるさ!でも俺達魚は、食べる物は泳いで探すんだ。追っかけて、口で捕まえる。人間は金で買うから、毎日獲物を追っかけないだろ?」

「そうだね。人間の方がいいかも?コンビニもスーパーもあるしね」

「そうかもな…でもな、人間にとって金を稼ぐのは、子ザメが最初に鰯を一匹捕まえるのより難しいんだ」

「へえ、やっぱりそうなのか…」

「金の稼ぎ方だって、金を何年も稼がなきゃ覚えられない。何年も練習するんだ」

「ふうん…就職してからも?」

「もちろんさ。就職してから勉強するんだ。でも心配するな。やればわかるさ。俺も今度、マグロとやり合ってみるかな…」

「父さんも頑張って。僕、バイトやってみるよ」

「おう!」




僕が高校生の時にアルバイトを始めてからというもの、浜に行っても父さんにはなかなか会えなくなった。もしかしたら水温上昇とかで、日本近海に居るのが難しくなったのかもしれない。でもサメというのは寿命が長いし、敵は居ない。父さんが死んだわけじゃないだろう。



僕には、会社員になってから妻が出来た。そしてその妻がサメを産んだ。隔世遺伝だったんだろう。

妻は出産でぐったりとしてしまったが、「この子をあなたのお父さんの所へ。お願い」と泣いて我が子をこちらへ渡してくれた。僕は海へタクシーを走らせた。

腕の中の我が子はくうくう息を立てる音はするが、たまにジタバタ暴れて苦しそうにする。

「運転手さん、急いでください!この子はサメなんです!早く海に!」

「承知したよお客さん!そういう事なら早く言ってください!仕方ないな、回り道に見えるかもしれませんがね、この道は先で渋滞してるんだ!急ぐので角まで戻りますよ!ご指定の九十九里浜ならどこでもいいんで!?」

「ええ!ええ!有難うございます!」

「よしきた!」



ざざあーんンン…ざざあーんンン…

子供を浜の浅瀬に浮かべると、少しぐったりとはしていたが呼吸が自由に出来るようになったと見えて、十分ほどして尾びれで体を回してぱちゃりと波を立てた。

僕は父さんを呼ばないと。

「父さーん!出てきてくれー!」

すると子供の頃のように、父さんのヒレがぱちゃっと飛び出す。ざぶざぶ浜辺へ上がろうとして、父さんは「ありゃ!」と叫んだ。

「僕の子だよ。父さんにそっくりだろう?」

「ははは。違いないな。おお、腹が空いているか。海の中へ連れて行かにゃ」

「父さん…今まで何してたのさ」

「ちょいとインドでマグロを追っかけてたのさ。まあその話はまた今度だ。海の中にはお乳をやれるメスは何匹も居る。新しい子は歓迎してくれるぞ」

「そっか…」

「名前はなんというんだ?」

「理絵って付けようとしてたんだよ」

「じゃあ理絵でいいさ。たまに会いに来るといい」

「うん。じゃあ、よろしくお願いします。父さん」

「はいよ。おおよしよし。暴れるなよ。俺の胸に吸い付くな!ないよ!」

「ふふふ」




おわり
作品名:僕のお父さん 作家名:桐生甘太郎