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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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僕のお父さん

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僕のお父さん





僕の父さんはサメだ。だから僕は海沿いに住んでいて、日曜日に父さんに会いにいく。母さんは父さんの分の仕事をしているから、寂しい時は毎日のように海に行った。

でも、父さんは毎日沿岸にいるわけじゃない。

うつ伏せに灰色の背びれを立て、癖なのか胸びれで水をぱちゃぱちゃやる父さんを思い出す。

「俺達サメは世界中を泳ぐ。日曜日にはお前の家の近くに居るようにするよ」


「今度の父兄参観、やっぱお前ん家の父ちゃん来ないの?」

「来れないよ、海だもん」

「勇の父兄参観だけ海でやればいいのにな。学校近いんだし。うちは元々来ないし、いいや」

「聡も大変だね」

「ダブルワークなんだ、うちの父ちゃん」

「おうち、帰ってこないの?」

「さあ。あんまり会わない」

「ふうん…」



海沿いでも、海に特別近いと海の匂いが強くする。塩と泥が混じったような、父さんの匂いだ。そういえば、いい匂いじゃないかもしれない。海の匂いが臭いと言ってる人も会ってないけど。

最近気付いたけど、塩からは匂いはしないんだ。今日は父さんにその事を聞いてみよう。海の人なんだから知ってるよね。


母さんが用意してくれたお弁当を持って、今日は母さんも仕事が休みだから一緒に会いに行く。父さんは母さん手作りのお刺身を喜ぶに違いない。それにしても、お刺身ってお料理なのかな?

ざざあーんンン…ざざあーんンン……とうさ〜ん!あなた〜!

すぐにぴょこんとヒレが飛び出す。灰色のヒレは縁が光って白い。水できらきらしてる。父さんだ!

「はいよ、今日は二人かい」

砂浜に父さんが出てくるまでは一苦労みたい。だって魚は歩かないから、砂浜に上がるのは大変だ。僕も母さんも水着は着てないし。

ばちゃばちゃしぶきを立てながら父さんは上がってきた。

「ふいーっ。一食もうけた。お前が居るんだからな。それでいいんだろ?そちらに荷物が見えるぞ?良い匂いがする」

母さんはウフウフ笑って大きなランチバッグを開けたがらなかった。あんまりお腹が空いていると、食べ終わった父さんはまた海に戻ってしまう。

「お話しが済んでからですよ。あなたはいつまで経ってもサメね」

「そうだ父さん!聞きたいんだよ!」

「はいよなんだい」

胸びれで頭を父さんが搔くと、きゅるきゅると鮫肌が擦れ合う音がした。

「おうちの塩はにおいがしないの。でも海は塩の匂いだよね。どうして?」

「うーん…」

父さんはしばらく考え込み、どうやらランチバッグは一旦諦めたみたいだった。

「そうだなあ。海の塩はしぶきになって空気に溶けるけど、おうちの塩は煮たり溶かさないと匂いはしないだろ?」

「そうだね」

「匂いっていうのは水分で空気に溶けるんだ。蒸発しないと匂いはしない」

「蒸発ってなあに?」

「それは学校で先生に聞きなさい。絵を描いたりする必要があるから。先生達は教えるための勉強をしてきたのさ」

「へえ〜…じゃあ明日は理科があるから、聞いてみるよ!母さん、お刺身!僕は唐揚げね!」

「ムッ、唐揚げだと?」

「あなたは塩分の高いものはだーめ。今日は鮪よ」

「ほお!そいつぁいい!奴らは速すぎて捕まえられなんだ…」


作品名:僕のお父さん 作家名:桐生甘太郎