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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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キリマンジャロへ愛を届けて

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突然バッグの隙間から青く激しい光が滑り込み、僕は目が覚めた。感じた事もない冷たい風が僕を包む。どうやら眩しく冷たいだけの場所らしい。僕は透の姿を早く見たかった。心配だった。

覚えのある手の感触が、僕を優しく抱えた。分厚い手袋に遮られているけど、透の手だ。彼は僕を自分の顔まで持ってきた。

嬉しそうに笑う透。その顔は黄色い防風着に半分包まれている。そんなに寒いのか。よく見ると、黒いフリースのパーカーフードも内側で引き絞られている。

「シロ。着いたよ。ほら、ごらん!」

何もかもを見下ろせる雲の上からの景色を見せ、透は更に僕を上へ差し上げて、陽に浴びせた。僕は怖かったけど、溶ける気配はなかった。

しばらく待ってみたけど、陽の光は明るくてもここは僕が溶けたりしない。そう気付いた時、不思議な感覚に襲われた。初めてここで、僕の命が産まれたような気がしたのだ。

「透、ありがとう」

そう言いたくて言いたくて、何度もは言えなくて。

安心して下へ降ろしてくれた透は、本当に嬉しそうだ。両手をいっぱいに広げ、然程距離も離れていない空と僕に一緒に叫んだ。

「シロ!君はもう心配なんか要らないんだ!ここで自由になれる!僕は…」

透は元気がなくなりかけて、言葉を止めた。彼は脇を向いて顔を隠すと、すぐに後ろを向いて蹲る。

〝泣かないで〟

僕にはそう声を掛ける事も出来なかった。僕だって寂しい。透と会えなくなってしまうのだから。ああ、自由の喜びが萎んでしまいそうだ。

でも僕は青い天井を見た。どこから見たって空は青い。それなら透と同じだろう。

そこは、神の山だった。地図の中に小さく収まっていたとは思えない、氷河の群れ。どんなに長い時間でここが出来たのだろう。肩に空が乗っているように青色が近い。

いつまで見ていてもこの景色を理解するなんて無理だ。そう感じてただ嬉しく、飽かずに空気を飲んだ。

そこへ透が戻ってきて、僕の隣に何かを並べた。見てみると、それは僕より小さな雪だるまだ。僕は思わず透の名前を呼ぶ。透は笑っていた。

「山頂には氷しかないかもしれないと思ったけど、雪もあって良かった」

隣で目を覚ました雪だるまは、事態が飲み込めず、僕達二人が泣いているので話せずに居た。透は雪だるまの頭に触れる。

「やあお嫁さん。僕のシロをよろしく」

「シロさんというの?よろしく。お嫁さんとして生まれるなんて嬉しいわ」

「いつも冷凍庫の中から僕に恋バナしてた癖にな」

僕は一瞬忘れていた小さな箱を思い出した。彼がそこを忘れていないのにもほっとした。

「まあ!冷凍庫から来たの!?それは大変だったでしょう!?」

素直に驚いてくれるお嫁さんに僕は嬉しくなり、なんという名前で呼びたいか考える。胸が苦しい。叫びたい。ありがとうと叫びたい。みんなを愛していると叫びたい。

透と僕は笑っていた。夢を叶えて。高い山の上で。彼と僕は生きている。広大な世界が僕にそう教えた。

「じゃあ僕はこれで。また会いに来るよ」

彼が僕に少し屈み込む。

「君も元気で。ここは任せたまえ」

僕は小さい胸を張ってみせた。

「雪だるまなら、一番任せられるね」

「そうとも」



「ねえあなた。お話しをしない?」

「ああ。ここは時間が長そうだ。長話に付き合ってくれ」

「ええ。もちろんですとも。私だって、ずうっとここに居た雪なの。やっと生まれられたから、たくさん話したいことがあるわ」

「そうだな…」



おわり