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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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春子は起きてすぐに、起き上がって俺に形だけ笑おうとした。でも、上手く出来なかったんだろう。

「七星さん…私…おはようございます」

春子が何もかもを怖がっているのは知っている。だから、彼女が謝る代わりに挨拶をするのが辛かった。

「嫌な夢でも見た?」

俺がそう言うと、春子は思い巡らしに目を寄せる。彼女の肩から布団がずり落ち、とさっと落ちた。

「お母さんが…私を追いかけて来て…それで私、逃げて…ごめんなさい」

彼女は、夫との話など忘れたかったのかもしれない。世界の全員が彼女の母親と同じだと、春子は思っているのだから。そんな夢を見ていたのだと思い込もうとした。もしくは、その夢も攻撃者と感じている者との話も、大して重みは変わらないのかもしれない。

「そう…嫌な夢だね。それに…」

話を続けようとした時、優馬が目の前に立っていた。奴の目が燃えている。その後ろには響子が走ってくるのが見えた。

「やめろ!落ち着け!」

「うるせえ!あんな母親死んで当然だ!俺がやる!」

優馬は放っておいても大丈夫だ。奴は怒鳴るだけ。ただし響子は春子を殺してしまう。きっと今、外の世界では春子が包丁を手にしているだろう。俺は迫り来る響子の刃を両手で止めた。

「七星さん!」

俺の手から血は出ない。でもその事に混乱した春子は気付かなかった。

俺が響子の両腕を掴んで床に押し倒すと、響子は足で俺の腹を蹴った。彼女の腕を押さえつけ続ける俺は、大声を出す力さえ奪われている。

「お前な…死ぬ事が幸福だなんて本当に思ってるのか…」

俺の心にちらとだけ〝本当はそれが一番の早道なんだ〟と閃きかけた。俺はそいつを全力をもって握り潰した。

「死ななきゃこの子は永遠に母親の奴隷よ!解放するんだわ!」

「カウンセラーに頼むんだ!」

「もう待ってられないわよ!これ以上苦しめられないわ!四六時中なのよ!この苦しみは!」

響子が床の上で首をじたじたと振り回しながら叫ぶ。俺は「違う」とどうしても言いたかった。だから彼女に聞いた。

「もう少しなんだ!なあ、そうだろ!?春子!」

響子を押さえながら春子を振り返ると、彼女は怯えて泣いていた。両膝を思い切り胸へと縮め、涙を拭いながら俺をぎりりと見詰める。

〝何故そんな目で俺を見るんだ〟

〝ああ、解ってる。君は助かりたくなんかないから…〟

「私…奴隷でもよかった…それでお母さんに愛されるなら…」

俺は膝で半分立ち上がったまま、春子から目を離せなくなった。でも、俺が泣く訳にはいかないんだ。

その時響子がまた暴れ出すかと思ったのに、響子はその悲しみに耐え切れず、泣き始めていた

優馬は窓を破ろうと両拳で叩いていた。

俺は?俺はどうすれば良かったんだろう?



つづく