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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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10話「内の人」





進さんはよく耐えてくれている。「死にたい」と言い、ここへ閉じ篭っている春子に。

俺は考えていた。いくら考えても、春子を幸せにする方法なんか思いつかない。現段階では、ここから出さないのが一番なくらいだ。

こんなご大層な別室まで作り上げて閉じ篭った春子。それには充分過ぎる程の理由がある。

春子には、自分以外の人間は攻撃者だった。そして、春子の中では、春子は「誰でも攻撃していい世界一悪い子」である。幼い頃に家庭で暴力を受けるというのは、「世界から攻撃される自分」を見せつけるのだ。

春子が復讐を考えないのは、復讐しても大人の力で倍返しにされた記憶があるというだけだ。それに、復讐は自分を大事にしない限り、思いつかない。大事にしたいなら、余計に復讐などしてはいけないが。


俺はチラリと、赤いドアを見やる。本物の血だ。春子の血だ。彼女はそれを知らない。あれは春子が流した血なのだ。十六歳の時に。

ここに居れば彼女は安全なのだ。春子の希望はここで安心する事なのだ。

俺は嘆息しする。春子は、愛想を尽かしたこの世にまだ留まってくれているだけだ。

傍らに眠る春子を見た。素直に両目を閉じている。その様子を見て俺は危険な気持ちなど湧かなかった。だからそれを心で叫ぶ。

〝君は傷つきやすいと、誰でも解る。もう今さら、誰が粗末に扱うものか!〟

春子にそう言って、永遠の安心を渡せたなら。でもそれは出来ない。彼女は誰も信頼していないから。

その時、外から誰かが大きく忙しないノックをした。ドン、ドン、ドン、ドン!握り拳の底で叩いているのだ。春子はその音も聴こえず眠り込んでいるらしい。俺はドアへ向かう。

大きな血のドアが目の前でねろりと光る。小さく息を吸い話し掛けた。

「進さんとは、どうだった」

相手は直ぐさま外で「ケッ」とか「ヘッ」なんて言ってみせた。本気でひねているのだろう、地面を蹴っている音がする。

「春子に当たらないと言うなら、ドアを開ける」

俺がそう言うと、相手は「いいから開けろ!」とだけ叫んだ。



私が目覚めた時、部屋には尋常じゃない緊張が詰まっていた。七星さんと、もう一人男の子が居る。彼は七星さんより少し若いみたい。いいや、大分かも。

若い男の子は、私の対角線上の端に座り込んで横を向いている。不機嫌そうな横顔。彼は右手を放り投げたり引き寄せたりしている。七星さんは彼と会話はしていない。なんだか、それも変な程、張り詰めた空気。

七星さんは、起き上がった私を見て、少し抑え気味に微笑んだ。

「春子。おはよう。こいつが自己紹介したいそうだ」

私が首だけで会釈しようとしても、その男の子は瞼を閉じて溜息を吐いた。こちらを見てはくれない。なんだか、私を嫌ってるみたいにさえ感じる。

「ほら」

七星さんが促しても、その子はイライラしたままだった。私を見てまた嫌そうに溜息を吐く。

「春子には当たらないって約束だぞ」

七星さんがそう言うと、その男の子はジッと私を見た。体は脇へ向かせたままで。

学ランを着た姿で、ブラウンに髪を染めた彼は、なぜかオレンジ色のピン留めをしている。言い方が悪いけど、ちょっと前のヤンキーみたい。

すうと息を吸い、彼はこう言った。

「お前の代わりに、怒ってきた。俺は、お前の身に何が起きたのか知ってるんだ。もう怒らせないでくれ」

「え、あの…」

駄目だ。この人達はなんか、大前提を無視して話をする!

〝まず、貴方はどこの誰なの!?〟

でも、あんなに真剣に「お前の代わりに怒った」なんて言われて、私が「あなたを知らないですから」なんて言いづらい。

そこへ七星さんがこう投げた。彼は無表情だった。笑っていない。

「こいつは、優馬という。春子。君は実は、俺達全員を知っている。その内に解るから、今は、全員が君に対して何もしないと知って欲しい」

「え、ええ…」

〝でも、知らないですけど…〟

よっぽど言いたかったけど、言えなかった。私、記憶喪失なのかしら。

深く考え込む事でもないわ。だって、考える為の材料がないじゃない。私は何も知らない。確かに、害になるような事って、あんまりなかったけど。

〝響子さんは、どうなのか分からない所もあるけどね〟

そう言いたくなっても、顎に手を当て右上へ目玉を回すだけに留めておいた。



つづく