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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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誰が彼女を生かしたか

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1話 「青い部屋」




そこは、言ってしまえば青いだけの部屋だ。壁も床も薄青で、溶かした油彩絵の具に一瞬浸して取り出した木材で出来ていそうな、透き通った薄い青。

大きめの窓があるらしき場所には、また薄青のカーテンが下がっている。空色とでも言おうか。

そして、部屋の住人は一人だけ。彼女は俯いて、泣いている。その女性は、膝を抱えて背を曲げ、必死に泣いている。嗚咽を漏らしもした。

「お母さん…お母さん…」

母が亡くなりでもしたのだろうか。いや、そうではないらしいぞと感じさせる物が、たった一つあった。

その部屋のドアは、真っ赤だった。血のように赤い。ベタベタと血で塗り固めたように、歪に色が乗って、しかし全体が真っ赤である。

彼女は異常者で、ドアを赤に塗りたくってから、幻想の母を呼んでいるのだろうか。第一、そのドアにはノブがない。彼女はどうやって空色の部屋から出るのであろう。

しかし、彼女はふざけるでもなく、母を呼び泣く。

しんしんと降り積もる悲しみを、涙へ涙へと、少しずつ雪解けを願う作業。

そこへ、赤いドアらしき所から、コンコンコンと音が聴こえた。注意深く誰かが様子を窺っていたようだ。

泣いていた彼女は大きく体を跳ねさせてドアを見たが、恐ろしくて立ち上がれもしないようだ。

ドアの向こうからはこう聴こえてくる。

「おはよう、春子。中に入れて」

春子と呼ばれた彼女は立ち上がったが、抜き足でドアに近寄り、「誰?」と聞いた。ここには誰も来ないのだろうか。

「今更聞かれても。積もる話もある。開けてよ」

そこからは水掛け論のような会話だった。

「だから、誰ですか!?」

さっきまで感情的に泣いていた春子は、今度は感情的に困って怒った。

「言っても分からないと思うけど、七星」

七星という男性らしき声は、ドアの向こうで女性が怯えているというのに、髪の毛一筋も怯えない。

「誰よ!?知らないです!帰って!」

ため息も聞こえなかった。三秒程の後、七星はこう言う。

「お母さんには、もう会えないよ」


春子はドアを開け、七星を迎え入れた。