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ヒトサシユビの森

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「すいません。朝から40度の熱が出て・・・」
亮太は社員寮の布団の中から、咳をしながら坂口建設に電話を入れた。
「インフルだと皆に迷惑かけるので、昼から病院に行ってきます」
喉の奥が詰まるような喋り方をして、亮太は通話を切った。
寝不足ではあるが、熱などなかった。
亮太が勤め先に嘘をついたのには、理由があった。
続いて亮太は、石束署に電話し、安田を呼び出した。
安田は不在だった。
電話口の相手は、亮太に
「安田は公務中です。ですので本日中にご連絡できないかもしれませんが、それでよろしければ」
待つ時間はたっぷりあったので、亮太は連絡先を伝え、安田からの電話を待った。
亮太と安田は高校1年のときに同じクラスだった。
在学中、親しく会話することはほぼなかった。
高校を中退してバイクを乗り回す亮太のことを、正直安田は嫌って遠ざけていた。
高校を卒業して警察官の道に進んだ安田と、亮太とでは住む世界が違った。
しかし近年亮太が定職に就いて大人しくなってからは、見方を変えた。
亮太が石束署に電話した後、半時間ほど経った頃に、亮太の携帯電話が鳴った。
発信者不明だったが、亮太は電話に出た。
「安田?」
「山本か?」
ふたりは互いを確認した。
「ありがとうな。ほんとにありがとう」
亮太は安田が電話をくれたことに、まず感謝をした。
「何だよ。反則切符の取り消しだったら、できないからな」
「そんなんじゃない。大事な話があるんだ」
「大事な話? 何か胡散臭いな」
「安田、いまどこにいる?」
「病院だ」
「病院? どこか悪いのか」
「いや、仕事だ」
「よかった。病院って、あの」
「石束総合病院」
「ああ、ちょうどその病院に行こうと思っていたところだ。会って話ができるか」
安田は返事をためらった。
警戒する気持ちが頭をもたげた。
しかしいま亮太は真面目に働いているようだし、仮にもクラスメイトだった時期もあった。
気は進まないが、話は聞いてやるか。
「少しくらいなら構わないけど」
安田は電話を切って、廊下の先を見つめた。
雪乃が闘病している病室に異変がないことを確かめた。

作品名:ヒトサシユビの森 作家名:椿じゅん