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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Scraper

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 警察署までの道は、さほど遠くない。おれはスマートフォンを手に取り、いつの間にか折り重なっていた着信履歴を押しのけてから、ポコ太郎にメッセージを送った。
『どこにおる?』
 ポコ太郎は、ルーさんの死体を見つけて警察に通報しただろう。すぐに逃げ出さない律儀な性格なのは分かったが、おれの言う通りに、ほとぼりが冷めるまでどこかへ姿をくらましてほしい。そう思って歩き続けていると、返信が届いた。
『さっきまでポリに取り調べ受けとった夢に出そうや』
 おれが続きを待っていると、さらにメッセージが追加された。
『頭の左半分が頭蓋骨みたいになっとった』
 頭なんだから、中にあるのは頭蓋骨に決まっている。おれはポコ太郎の言い回しに思わず笑った。このやり取りも、すでに懐かしい。大きな交差点で歩行者用の信号が赤に変わり、おれは足を止めた。ポコ太郎には嫌な思いをさせてしまったが、おれがやったと知ったら、驚くだろうか。おれは全く動じることなく、トカさんに教わった通りに、体のど真ん中に一発を撃った。
 自分の行動を頭の中で復唱したとき、違和感があった。おれはポコ太郎のメッセージを見返した。左半分が頭蓋骨なのは、おかしい。
『どこを撃たれてた?』
 おれがメッセージを打つと、すぐに返信が届いた。
『腹と頭や』
 頭なんか、撃っていない。そう思ったとき、おれは直感で着信履歴を確認した。四件ともトカさんの番号。不在着信の履歴を見つめていると五回目の着信が入り、おれは通話ボタンに触れた。すぐに、雑音混じりのトカさんの声が響いた。
「家におるか?」
「いえ、外です」
 おれが言うと、トカさんは笑った。
「今すぐ、回れ右して家に戻れ。何も言うな」
 おれはトカさんの言う通りにど真ん中を狙って、現場に銃を残した。身に覚えのない一発は、その後にルーさんの頭へ向けて放たれたことになる。
「撃ったんですか?」
 おれが訊くと、声は返ってこなかったが電話の向こうでトカさんが笑ったのが、何となく分かった。
「人を殺すときは、腹と頭に一発ずつ撃つんや。腹を撃ったぐらいでは死なん」
 トカさんが言い終わるのと同時に、電話の向こうで声を囲んでいた雑音が静かになった。建物の中に入ったような気がして、おれは言った。
「どこにおるんですか?」
「警察署や。おっさんなっても、緊張するもんやな」
 おれは、思わず縁石に座り込んだ。トカさんは出頭する気だ。普通にできていたはずの息が、意識しないと止まってしまいそうだった。電話の向こうで、トカさんは言った。
「お前は、ヒマリのためやったら自分を投げ出せる。自信を持て」
 今までに聞いた覚えのない話し方だった。ずっと箱の中に入れたままにしていたように不自然だったが、取り出す機会をずっと待っていたようにも聞こえた。もしかしたら、家族にはこんな風な口調で話していたのかもしれない。そう思いながらおれが立ち上がったとき、まるで目の前でそうするのを見ていたみたいに、トカさんは言った。
「はよ、帰ったらんかい」
「なんでおれに、こんなことをしてくれるんですか」
 おれが言うと、トカさんは咳ばらいをした。
「こうなるまで、なんもできんかっただけや」
 目の前で歩行者用の信号が青に変わり、人の波が反対側から押し寄せてきた。普通に生きてきた、普通の人たち。その流れに任せていいのだろうか。いや、そうしろと言われたのだ。息を整えて言葉を継ごうとしたとき、通話はもう終わっていて、鳴らしても繋がらなくなっていた。おれはスマートフォンをポケットに仕舞うと、顔を上げた。
 トカさんは自分の身を差し出すことで、おれを波の反対側に押し戻してくれた。
 散り散りに各々の人生に進んでいく人たちの波に歩調を合わせると、トカさんの言う通りで、それは正しいことのように思えた。安っぽい覚悟の言葉が届かないなら、身をもって証明するしかない。おれは家への道を歩き始めた。
 自分の力で、波の反対側へ。
作品名:Scraper 作家名:オオサカタロウ