本当のリラックスとは何か
――力を抜くことではなく、警戒を解くこと――
「リラックスしてください」と言われて、本当に楽になれたことがどれほどあるだろうか。
深呼吸、瞑想、音楽、温泉。世の中には無数の“リラックス法”がある。しかし、長年働き続け、疲労を積み重ねてきた人ほど、それらが効かないことを知っている。
なぜなら、多くの人が思っているリラックスと、本当のリラックスは、まったく別のものだからだ。
本当のリラックスとは、力を抜くことではない。
「安全だ」と、体が判断することだ。
人の体は、意志よりも先に環境を読む。
評価されるのか、責任を問われるのか、失敗すれば責められるのか。
それらを無意識に計算し、危険があると判断すれば、自律神経は緊張を解かない。
だから「リラックスしよう」と思うほど、逆に緊張する。
力を抜こうとする意志そのものが、警戒のスイッチを入れてしまうからだ。
慢性的な過労状態にある人にとって、疲れの正体は体力不足ではない。
判断し続け、期待に応え続け、役割を背負い続けてきたことによる、神経の摩耗である。
過労が怖いのは、疲れている感覚から先に壊れる点にある。
「まだ大丈夫だ」「自分はやれている」と感じている間に、回復する力そのものが削られていく。
その状態での休息は、休みにならない。
横になっても、風呂に入っても、頭は止まらない。
それは休めていないのではない。
警戒が解除されていないのだ。
本当のリラックスが起きる瞬間には、特徴がある。
眠くなる。
やる気が出なくなる。
何も考えたくなくなる。
感情が平坦になる。
多くの人はこれを「怠け」「老化」「気力の低下」と誤解する。
しかしそれは、長年張り詰めていた神経が、ようやく緩み始めた証拠である。
本当のリラックスとは、
何もしない時間ではない。
責任から外れた時間だ。
役に立たなくていい。
評価されなくていい。
期待に応えなくていい。
その状態が繰り返し保証されたとき、体は初めて「ここでは緊張しなくていい」と学習する。
特に60代以降に必要なのは、回復のためのリラックスではない。
壊れないためのリラックスである。
もはや、頑張り直すために休む必要はない。
戦わなくていい場所を持つこと。
それが、これからも働き、生きていくための、最も現実的な知恵だ。
本当のリラックスとは、
癒されることではない。
「もう、何も起きなくていい」
そう体が信じられる状態である。
本当のリラックスとは、力を抜くことではない。
警戒を解いても、何も失わないと体が知ることだ。
作品名:本当のリラックスとは何か 作家名:タカーシャン



