心の奥底の願い
「亡骸は見つからないかもしれませんが・・・エスナは戦いで亡くなったんです」
エスナを探した所で見つかる事は無いと公には出来ない。自分に言い聞かせるかの様にセイはそう口にした。
「・・・・・」
悲しげにメリアはセイを見上げると、ゆっくりと頷いてみせた。
「少しずつ捜索の人数を減らしていくわ・・・それでいい?」
「ありがとう姉上」
自分の気持ちを汲んでくれたメリアにセイは感謝した。
「セイ、ちゃんと食べて休憩も取って頂戴ね?倒れてしまうわ」
恐らくエスナが出陣してから食事も睡眠も取っていないだろう弟が心配で堪らない。ましてやルイスからの報告を受けてからの心労や苦しみは相当なものだろう。
メリアは心配げに弟の頬に手を当てた。
「それじゃあ、私は少し指示を出してくるわ」
はい、と、頷くセイにかけてあげられる言葉が見つからない。下手な慰めの言葉はセイの心の傷を大きくするだけかもしれない。そう思うとメリアに今出来る事は少ないかもしれないが、まずは部下達を上手く動かしてエスナの捜索を切る事。メリアは踵を返すとそのまま部屋を出ていった。
「・・・・・・」
遠ざかっていく足音と共に、徐々にセイの足から力が抜けていった。ついには床に倒れこむように膝と手を突く。床に突いた手は強く強く握り締められていて、耐えるかの様に微かに震えていた。その拳に落ちる数滴の涙。
***
数ヶ月後、山間の小さな村の外れの草原にエスナは立っていた。柔らかな日差しが降り注ぎ、青々とした草木が暖かい春の香りを運んでくる。エスナは胸の前で手を組むと祈るように何かを呟いた。春の日差しよりも柔らかな光がエスナの組まれた手から溢れ出す。その光を空に向かって差し出しながら手を開くと、光は鳥の姿に変わって飛び立っていった。
エスナは数ヶ月前を思い返していた。怪我をしたエスナを抱えフォレストはこの小さな村の入口へと降り立った。すると、そこには男性がエスナ達を待っていたかの様に立っていたのである。その男性はフォレストの友人だった。急患が来ると予知能力のある看護師が告げたらしく、友人が迎えに出てきたらしい。エスナの連れて行かれた村は魔族と人間が仲良く暮らす山間の村で、平和で仲良く協力して暮らしている村だった。
危ない状態だったエスナは手厚い治療と看護を受け、一人で出歩ける程に回復していた。フォレストと共に村から離れた山の麓で家を建て暮らす事となった。村に落ち着く事も考えたが二人共事情が事情なだけに、村から離れひっそりと暮らす事を選んだ。
エスナの魔法の鳥は北の地にある魔族の国へと飛んでいった。迷う事なく鳥は開け放たれた窓へと入っていく。その部屋はクライアンの部屋だった。エスナの魔法の鳥はクライアンの手に止まるとすうっとその姿を消した。
「あいつの居る村とは考えたな」
くくっ、とクライアンは小さく笑うと窓辺に立った。
エスナの魔法は人間以外が使う手紙の魔法だった。相手に届くと鳥は言葉だけを残して姿を消すのだ。
「幸せに・・・」
と、クライアンの言葉は鳥になって飛んでいく。
END