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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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朽ちた聖域 Ⅱ廃教会でのセッション

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「じゃあまず、パッヘルベルのカノン、18小節目から26小節目まで弾こう」
「はい」
 全員で弦楽器を構え、杉内先輩がうなずいたのを合図に演奏を始めた。わずか4挺のバイオリンからなるアンサンブルながらも、この曲の最も有名なメロディーの残響は深く、確かに「生きている」ように響いた。まさに天上の聖歌隊の歌声のように…。


 指定された箇所の演奏を終えると、杉内先輩は大きくうなずき、ほかの面々も満足げな顔をした。
「よしっ、今の感じでいいよ。次はいよいよ録音する。パッヘルベルのカノン、頭から」
「はい」
 濱内、伊藤さん、亜美は再び演奏体勢に入り、杉内先輩は携帯用録音機をオンにした。彼が伊藤さんに目配せすると、伊藤さんは最低音域の音を奏で始めた。3小節目から杉内先輩が主旋律を弾き、5小節目から濱内が、7小節目からは亜美が副旋律を弾き、明るく上品な調べが構成されていく。そして曲のサビに入ると、4人が奏でるメロディーは、天井を超えて天上にいらっしゃる神や天使たちに届きそうなほど美しく、華やかに響いた。
 第一印象が「音の墓場」だったこの場所は、杉内先輩の主導で今や「音の楽園」に変えられていた。


 やがて演奏が終わると、杉内先輩は録音機をオフにして、大きくうなずいて拍手をした。
「いやぁ、すごい、一発OKだ!みんな、ありがとう」
 彼は明るい表情で伊藤さん、濱内、亜美の順番に握手をした。
「本当にすごいアンサンブルでした!」
 濱内も拍手しながら興奮気味に言った。
「夢みたいです~」
「1回でノーミスとか奇跡だよ。スギの後輩たち、すごいね」
 亜美は照れるあまり、右手で顔を隠した。
「アミティも濱くんも、本当に上手になった。自信持っていいよ」
 そう言って杉内先輩がうれしそうにうなずいた。亜美は濱内と視線を合わせて笑みを見せると、微笑んだまま下を向き、首をぷるぷると振った。
「じゃあ、しばらく休憩。そのあと、ヴィヴァルディの『夏 第3楽章』のセッションをして、あとはおのおののソロを披露する。その流れで行くよ?」
「はいっ」
 こうして彼らは休憩に入り、おのおのの楽器をいったんケースにしまった。

 伊藤さんがタオルで汗を拭きながらふと木製の椅子を見ると、何かが置かれていた。
(何だろう、これ…)
 椅子の上にあったのは、ほこりを被った紙の束で、五線譜の上には、かすれた文字でこう書かれていた。

「In Sanctuario(聖域にて)」