朽ちた聖域 Ⅰ先輩からの誘い
「え、これ、先輩から…?」
大恩音楽大学三年・野口亜美は、自分のスマートフォンへのメッセージの差出人のアドレスを何度も確認した。それというのも、画面には彼女の憧れる杉内洋音(すぎうち ようね)の名前が映っているからだ。彼はこの大学の大学院まで出たОBで、今や国内外で注目される若手バイオリニストなのである。そんな彼からのメッセージは、至ってシンプルなものだった。
「明日、郊外の教会で音響のテストをする アミティも手伝ってくれるかな?」
この一文だけで、亜美の心が喜び踊った。杉内先輩と一緒に演奏できるなら、寂れた場所さえ居心地良くなるだろう。
気分上々な亜美に、誰かが声をかけた。
「おっ、アミティ、何かうれしそうだな?」
声の主は、1学年上で同じバイオリンを専攻する濱内隆司だ。
「あっ、濱内さん。実は私、杉内先輩に、『音響のテストをしたいから手伝ってくれないか』って誘われたんです」
「杉内先輩」というワードを聞いて、濱内の目もキラリとした。彼自身も杉内先輩の隣で幾度となく演奏をしており、彼のことを「内弟子」とまで呼ぶ学生も居る。
「杉内先輩って、あの杉内先輩!?」
「はい、そうです」
「じゃあさ、俺も参加していいか先輩に聞いてくんない?」
亜美は快諾し、濱内の参加の可否を杉内先輩に聞いてみた。それから1分とたたずに、亜美は返信を受け取った。
「断る理由はなし 明日の午後4時、現地集合だ」
このメッセージの直後に、郊外の教会までの道筋を示す手書き地図の画像が添付されていた。彼女は承諾の気持ちを表すスタンプを彼に送ると、濱内と視線を合わせて微笑みながら親指を上げた。彼も亜美と同じアクションをした。
大恩音楽大学三年・野口亜美は、自分のスマートフォンへのメッセージの差出人のアドレスを何度も確認した。それというのも、画面には彼女の憧れる杉内洋音(すぎうち ようね)の名前が映っているからだ。彼はこの大学の大学院まで出たОBで、今や国内外で注目される若手バイオリニストなのである。そんな彼からのメッセージは、至ってシンプルなものだった。
「明日、郊外の教会で音響のテストをする アミティも手伝ってくれるかな?」
この一文だけで、亜美の心が喜び踊った。杉内先輩と一緒に演奏できるなら、寂れた場所さえ居心地良くなるだろう。
気分上々な亜美に、誰かが声をかけた。
「おっ、アミティ、何かうれしそうだな?」
声の主は、1学年上で同じバイオリンを専攻する濱内隆司だ。
「あっ、濱内さん。実は私、杉内先輩に、『音響のテストをしたいから手伝ってくれないか』って誘われたんです」
「杉内先輩」というワードを聞いて、濱内の目もキラリとした。彼自身も杉内先輩の隣で幾度となく演奏をしており、彼のことを「内弟子」とまで呼ぶ学生も居る。
「杉内先輩って、あの杉内先輩!?」
「はい、そうです」
「じゃあさ、俺も参加していいか先輩に聞いてくんない?」
亜美は快諾し、濱内の参加の可否を杉内先輩に聞いてみた。それから1分とたたずに、亜美は返信を受け取った。
「断る理由はなし 明日の午後4時、現地集合だ」
このメッセージの直後に、郊外の教会までの道筋を示す手書き地図の画像が添付されていた。彼女は承諾の気持ちを表すスタンプを彼に送ると、濱内と視線を合わせて微笑みながら親指を上げた。彼も亜美と同じアクションをした。
作品名:朽ちた聖域 Ⅰ先輩からの誘い 作家名:藍城 舞美



