『昭和の邪魔邪魔ン』
会社には、見えない生き物が棲んでいる。
名を「邪魔邪魔ン」という。
朝の会議では「それは前例がない」と囁き、
午後の提案では「リスクが大きい」と笑う。
若手が手を挙げると、
見えない手でそっと押さえつける。
邪魔邪魔ンの好物は「変化」。
それを見つけると、すぐに近づき、
「様子を見よう」と胃の中にしまい込む。
彼らは決して悪気がない。
ただ、「失敗したくない」という
善意の化石なのだ。
会議が終わるころ、
部屋の空気が少し重くなる。
それが、邪魔邪魔ンが満腹になったサイン。
だけど──
新しいアイデアに火を灯す人たちは知っている。
邪魔邪魔ンを追い出す呪文を。
それはたった一言、
「まず、やってみよう」
そう言うと、
邪魔邪魔ンはちょっとまぶしそうに目を細め、
そっと消えていく。
『心の中の 邪魔邪魔ン』
心の中にも棲んでいる。
名を「邪魔邪魔ン」という。
朝、鏡を見るとき、
「今日もダメかも」と囁く。
夢を描こうとすると、
「そんなの無理だよ」と肩を叩く。
邪魔邪魔ンは臆病で、
とても寂しがり屋だ。
誰かに笑われないように、
傷つかないように、
いつも先回りして
ブレーキをかけてくれる。
だから、本当は敵ではない。
ただ、少し心配性な
“もう一人の自分”なのだ。
ある日、私は言ってみた。
「ありがとう。でも今日は行ってみるね。」
その瞬間、
邪魔邪魔ンはふっと笑って、
姿を消した。
そして、心の中に
小さな風が吹いた。
それは、
“自由”という名の風だった。
『未来を照らす 邪魔邪魔ン』
あの頃は、
何かを始めようとするたびに現れた。
「やめておけ」「失敗するぞ」と、
未来を曇らせる存在だった。
でもある日、気づいたんだ。
あの声は、
私を止めるためじゃなく、
守ろうとしていたのだと。
恐れの奥には、
優しさが潜んでいた。
不安の影には、
希望が隠れていた。
そう思えた瞬間、
邪魔邪魔ンは変わった。
もう、道をふさがない。
むしろ、暗い夜道の先で
小さな灯を掲げてくれている。
「怖くてもいい。
そのまま進め。」
今では、
私の中でいちばん頼もしい味方になった。
未来を照らす──
それが、
かつて“邪魔”だった存在の、
本当の役目だったのだ。
作品名:『昭和の邪魔邪魔ン』 作家名:タカーシャン