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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Squib

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 姫浦は傷口を開かれた痛みで朦朧としながら言った。右腕から流れ出す血が止まるのと同時に体を起こそうとしたが、上戸は首を横に振って傷をしばらく圧迫し続けた後、ひと仕事終えたように息をついてから、肩を貸して姫浦を助手席に乗せた。バックパックを後部座席に放り込んでプリウスを発進させると、林の中を抜けて国道へ合流したところで言った。
「どこで張ってたんだ?」
「山の中です。全部処分してから下りたので、回収はしなくても大丈夫です」
 姫浦が言うと、上戸は苦笑いを浮かべた。
「おれは、コイン精米所の裏で二日だ。腰が痛いよ」
 姫浦は、思わず目を大きく開いた。
「ずっと、見張ってたんですか」
「稲場から休暇を取ったって聞いたからな。そんなことしないだろ」
 上戸が呆れたように言うと、姫浦は少しだけ体を起こした。
「西側の林道にギャランを置いています。そこで降ろしてください」
「それも回収させるから、とにかく安静にしてろって」
 上戸はそう言うと、ハンズフリーで通話を始めて回収係に合図を出した。
 姫浦は窓の外に視線を移すと、血の流れが元通りになって少しずつ明晰になっていく頭を傾けて、サイドウィンドウに預けた。上戸が通話を終えて、しばらく無言で過ごした後、車内に虫が入り込んでいることに気づいた姫浦は、それを目で追って左手で叩き殺した。上戸は包帯でぐるぐる巻きになった左手で室内灯を点けると、神経質に車内を見回した。姫浦は、上戸の首元が虫に食われていることに気づき、振り返った。あのM1Aが、後部座席に置いてある。姫浦の視線の動きに気づいた上戸は、前を向いたまま口角を上げた。姫浦は、岡崎と撃ち合ったときのことを思い出していた。銃口の向きが逸れていたし、あれはどう考えても外していた。しかし、あの男は車回しの屋根で死角にならないギリギリの位置に伏せていた。それを上から狙えるとすれば、最初に想定していた狙撃位置しか思いつかない。上戸は後部座席のドアを開放して、蚊に食われながら車内でライフルを構えていたのだろうか。姫浦が横顔を見たとき、上戸はハンドルを顎で押さえて、右手でわざとらしく首元を掻きながら言った。
「危なかったな。ああいうときはさ、ちゃんと狙って撃てよ」
 姫浦は窓に頭を預けたまま、くすりと笑った。
「助かりました。でも、もうやりません」
「いや、お前はやるだろ。だから、稲場にあんな口が利けるんだよ」
 そう言うと、上戸はもう一匹蚊を殺した。結果的に、依頼は本当の意味で完了した。姫浦を敢えて野放しにしている稲場からすれば心臓に悪いだろうが、このまま須藤を見殺しにしていたら、熊田から逆恨みを受ける可能性もあった。
「田邊んとこまで、二時間ぐらいか」
 上戸の独り言のような呟きを聞きながら、姫浦は目を閉じた。何時間でもいい。
 少なくともこの車内では、自分は安心して眠ることができる。
作品名:Squib 作家名:オオサカタロウ