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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Dirge

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 今、スマートフォンにシミズからのメッセージが届いた。オカダはため息をつくと、ヤスナカが辿った運命について、思いを馳せた。今はおそらく死体となって、タクシーのトランクの中にいるのだろう。この横野という男は、監視の目を逆に辿って、芋づる式に全員を殺した。つまり、自分がついさっき衛星電話で指示を出したとき、その電話機を持っていた相手は横野の仲間だったのだろう。だとすれば、シミズとヤシマもおそらく、もう死んでいる。大した奴だ。オカダが眉間を手で押さえたとき、横野は言った。
「イノウエ、キド、マチノ。三人と連絡は取れますか?」
「試すまでもない。そう言いたいんだろ?」
 オカダがそう言って小さくため息をつくのを見ながら、横野はイヤーピースに届いた宝来からのメッセージを聞き取った。こちらの仲間は、六人いる。最初に役割を果たしたのは、機材が満載されたケーキ屋のバンを運転する野島で、ヤスナカが持っていたスマートフォンを解析して情報を集めた。衛星電話が使い物にならないことは、オカダもよく分かっただろう。オカダからの発信を受けて、マチノごと雑居ビルを爆破したのは最若手の村山で、レンタカー屋でキドを射殺してトランクへ放り込んだのはベテランの絹谷。そして、展望台でイノウエを蜂の巣にしたのは駒野だ。最も長い期間潜入していたのは宝来で、今回は現場部隊のリーダーを務めている。
 外への道は、全て封じた。だからこの場には、小手先ではなく物理の世界しか残っていない。横野はテーブルの近くに伸びる護衛の影を観察し、その動きを読んだ。真後ろにいる護衛二人と、外にいるひとり。この三人がオカダの指示を受けてどう振舞うかが、次の問題だ。
 オカダは、横野の顔を見返した。どこまでも肝が据わっているし、その表情を見る限り、死ぬことすら気にかけていないように感じる。呼吸を整えると、オカダは横野の背後に立つ護衛二人に距離を空けるよう、手で指示を出した。大した腕前だが、ここまでだ。屋上から撃たせるのが、一番手っ取り早いだろう。
 
 タニムラは、護衛二人が場所を空けて、オカダと対面に座る男の背中ががら空きになったタイミングで、呼吸を整えた。全くもって、後味の悪い稼業だ。FALのグリップをしっかりと握り直してストックを肩に押しつけたとき、視界の隅で壁の模様がぐらりとずれるのを見たタニムラは、グリップから思わず手を離した。
 ずっと壁だと思っていた場所に、人がいる。

 三発の銃声が鳴り、吊っていた糸が切れたように倒れた護衛たちの死体を目の当たりにしたオカダは、からからに乾いた喉を鳴らした。横野は言った。
「屋上には、期待しない方がいいです」
 六人目の仲間である鶴田は、昨日の夜中に持ち場についた。壁の色に合わせた服で身を隠し、十二時間待機した。長丁場になったが、三人の護衛を殺すのに一秒かからなかった。横野はコーヒーに手を付けることなく、反応を待った。オカダは、ようやく覚悟を決めたように、言った。
「撃て」
「私の目的は、あなたを殺すことではありません」
 横野はそう言うと、オカダから目を逸らせることなく、タクシーの運転手にひらひらと手を振った。運転手はトランクを開けて、重そうなバッグを三つ地面に置くと、うんざりしたように運転席へと戻った。横野はメモを胸ポケットから取り出すと、続けた。
「まず、ヤスナカをお返しします。そして、あなたには会長の座に戻っていただきたい。それが、伝えたかったことです」
 オカダが固まったように椅子に座る間、横野は自分の言葉がその頭へ染みこんでいくのを待った。オカダはようやく、声を絞り出した。
「戻ったとして、おれに何をさせたいんだ」
 横野は何も言うことなく、その目を見返した。こちらがやるべきこと、つまり依頼内容だけは明確に決められている。それは、誰が後釜に座ろうが、排除されるのはその後釜の方で、玉座に引きずり上げられるのは、あくまでオカダだということだ。
 そうでないと、この組織は崩壊させるべき『公約』として、機能しない。
 選挙の目玉を取り戻すこと。それが依頼の核の部分で、『使える人間を総動員して実現しろ』と指示が出ている。何故なら次に政権を取りそうな候補は、選挙期間中のポーズだけではなく、公約を本気で実現する可能性が高いからだ。
 だとすれば、この手の稼業を纏め上げる『会長』にとって、最後の日は穏やかではないだろう。まずは電話が全て不通になり、路地に隙間なく規制線を張った警察に逃げ場を奪われた後、建物から害虫のように燻し出されて、公衆の面前で射殺される。
 いつかは分からないが、それは必ず起きる。
 だから『何をさせたいか』という問いに対する答えは、ひとつしかない。
 横野は席を立つと、まだ自分に目を向けているオカダに言った。
「続けろ」
作品名:Dirge 作家名:オオサカタロウ