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タカーシャ
タカーシャ
novelistID. 70952
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ガラスの妖精とダイヤの小径

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「……“限らない”?」
「記憶も、形も、性質も、すべて変わる。
 もしかすれば、影のほうが主導権を握るかもしれない」

一瞬、頭の中で二つの自分がぶつかり合う。
影を取り戻し、過去を再び抱きしめるか――
光を守り、空洞のまま未知を進むか。

黒い手が、わたしの胸の奥から光をつまみ上げる仕草を見せる。
指の間には、小さな欠片――
砕けたダイヤのような輝きが揺れていた。

「決めろ。
 光を捨てるか、影を諦めるか。
 どちらも欲しければ――代わりに、心臓を置いていけ」

その言葉と同時に、
深淵の空気が鋭く震え、
わたしの足元の鏡が一斉にひび割れた。




〈心臓の契約〉

「……心臓を置いていく」
自分の口からその言葉がこぼれた瞬間、
胸の奥で何かがきしむ音がした。

黒い手がゆっくりとわたしの胸に沈み込み、
温かく、そして脆い鼓動を指先で包み込む。
抜き取られる瞬間、世界の音がすべて遠ざかり、
血の気が引いていく感覚だけが残った。

掌の上に置かれた心臓は、光と影の境目のように揺らぎ、
外側は透明な水晶、内側は深い夜の色をしていた。
それは息をするたびにわずかに震え、
自分のものでありながら、もう二度と戻らないとわかった。

「これで、お前は両方を手に入れた。
 光と影、完全なる二つの顔を――」

黒い手が消えると同時に、
わたしの身体の輪郭が二重になった。
右半分は眩しいほどの光を放ち、
左半分は底なしの闇に沈んでいる。
息をするたび、光と影がゆらぎ、
誰も本当のわたしの姿を見極められない。

だが、胸の中心は空洞だ。
鼓動は戻らない。
それでも、不思議と痛みはなかった。
代わりに、
わたしの耳元で二つの声が同時に囁く。

「光を求める者を導け」
「影を求める者を沈めよ」

その瞬間、頭上の鏡は一斉に砕け、
無数の破片が空に舞い上がって、
わたしが進むべき新たな道を形づくった。

わたしは胸の空洞に手を当て、
一歩、異界の奥へと踏み出した。
そこから先の道は、
光でも闇でもなく――心臓を失った者だけが歩ける道だった。




〈守人の最終譚〉

異界の奥へ進むたび、
わたしの身体は二つの世界を行き来した。

右の足が踏むのは、
金色の草原、暖かな風、笑い声のこだまする光の国。
左の足が踏むのは、
月もない夜の湖、冷たく沈む瞳、孤独が結晶になる闇の国。

どちらも真実で、どちらも嘘だった。

心臓を失ったわたしは、もう感情に支配されることがない。
愛も、憎しみも、全てが等しく平らに並ぶ。
だからこそ、均衡を保つことができる――
そう、ガラスの妖精は笑って言った。

光を求める者には、影を添えて渡す。
影に沈む者には、一滴の光を与える。
そうして無数の魂が、均衡の道を歩き出すたび、
わたしの空洞には小さな響きが生まれた。
それは、失われた鼓動の代わりに鳴る、
世界そのものの脈動だった。

いつからか、人々はわたしをこう呼ぶようになった。
**「二つの顔を持つ守人」**と。

だが、ある夜。
黒い湖の底から、
かつてのわたしの“影”が、ひとりでに這い上がってきた。
その瞳は、心臓を取り戻すかのように、
真っ直ぐにこちらを見つめていた――。

わたしは微笑んだ。
守人としての旅は終わらない。
光と影、その境界線が続く限り。




〈影の帰還〉

黒い湖のほとり。
霧が地を這い、足元に絡みつく。
そこに立つのは、わたしと同じ顔――
ただし、瞳は深い夜を湛え、口元は鋭い弧を描いていた。

「お前の心臓、返してもらう」
その声はわたしのものではなかった。
けれど、胸の空洞の奥で何かが反応する。
かつてここにあった温もりが、震えるように目覚めた。

「それを取り戻せば、お前はただの“人間”に戻る」
影は一歩、湖面を踏みしめるたび、
波紋が夜空にまで広がっていく。

わたしは光と闇の両腕を広げる。
右腕が生み出す光は眩しく、
左腕が放つ影は深淵のように冷たい。
その二つが触れ合うたび、
周囲の空気が鋭い音を立てて裂けた。

「……私はもう人間じゃない」
その言葉と同時に、右手の光で影の形を縫い止め、
左手の闇でその輪郭を溶かしていく。

しかし影は笑った。
「無駄だ。お前の光も闇も、元は私のもの」

次の瞬間、影は自らを霧に変え、
わたしの胸の空洞へと流れ込もうとした。
世界が反転する感覚――
光が闇に侵食され、闇が光に染まる。

そこで、わたしは選んだ。
胸の空洞を閉じるのではなく、
全てを解き放つことを。

空洞からあふれたのは、
純白と漆黒が渦を巻く奔流。
それは影を包み込み、湖も空も呑み込んで、
境界そのものを消し去った。

霧が晴れたとき、
わたしはひとりで立っていた。
胸には心臓も空洞もなく、
ただ、静かな脈動だけが全身を満たしていた。

「これで終わりじゃない」
どこからか、影の声が聞こえる。
消えたのではない。
――私の中に還ったのだ。




〈統合の試練〉

新たな世界は、輝きと闇が溶け合い、
境界のない無限の空間だった。
そこでは時間も場所も意味を持たず、
ただ「存在」だけが揺らめいていた。

わたしは歩く。
しかし足元に跡はなく、声も反響しない。
光と影を統合した身体は、
もはや形ではなく、純粋な意識の波だった。

その時、無数の声が一斉に響き渡る。
「試練を越えよ。
 お前が真に守人となるなら、
 自己を超えよ」

前方に現れたのは、
かつてのわたしの断片――
幼い日の笑顔、痛み、怒り、喜び、後悔、全てが顕在化した幻影。

一つ一つの断片が、わたしの意識に問いかける。
「これを抱きしめられるか?」
「これを許せるか?」
「これを超えられるか?」

迷いも恐れもないはずの意識が、
かすかな揺らぎを見せた瞬間、
破片たちは猛り狂い、わたしの波を砕こうと襲いかかる。

だが、光と影が織りなす新たな力が応える。
破片たちを包み込み、溶かし、
統合の渦となって吸収していく。

試練を超えた先に、
わたしは真の守人として目覚めた。
形なき存在は、世界の均衡を保ち、
光と影の間に新たな調和を生み出す。




〈調和という名のオアシス〉

光と影が交わる場所で
すべての心はやすらぎを知る
そこが真実のオアシス
誰もが辿りつくべき場所