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タカーシャ
タカーシャ
novelistID. 70952
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「最高に愉快な、生命の王者の旅」を

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〈生命の王者の旅〉

むかしむかし——
世界のど真ん中に、
王冠をかぶらない王様がいました。

その名は ライオ・ハッハ。
立派な宮殿も、きらきらの馬車も持っていません。
持っているのは、
大きなリュックひとつと、
なんでも笑いに変えてしまう不思議な心。

ある朝、ライオは目を覚ますと
リュックの中に見知らぬ地図が入っていました。
地図には、大きくこう書かれていたのです。

「世界一おいしい人生の食べ歩きツアー」

地図の道はまっすぐじゃありません。
ぐにゃぐにゃ曲がり、くるっとループし、
ときどき道が空に浮かび上がっています。

ライオは笑って言いました。
「これは…最高に愉快な予感しかしないぞ!」

こうして、
生命の王者の旅が始まりました。

――道の先には、
ライバルのようで友だちの“風のトム”、
甘くて苦い“涙のチョコレート屋”、
そして“笑いの滝”が待っているのですが…
それはまた、次のお話。



〈笑いの滝〉

ぐにゃぐにゃ地図の道を歩くこと三日。
ライオ・ハッハは、森を抜けたその瞬間、
耳の奥がくすぐられるような音を聞きました。

クスクス…
クスッ…
クハハハハハッ!

音の方へ進むと、
目の前に現れたのは、高くそびえる白い滝。
けれど水じゃない。
滝からあふれ落ちているのは、
きらきら光る「笑い声」でした。

笑い声は飛沫になって空に舞い上がり、
陽の光を浴びて虹色にきらめきます。
吸い込むと、お腹の底がポカポカして、
心が羽のように軽くなるのです。

滝のふもとには、
大きな桶を抱えた老人が座っていました。
白いひげに、笑いジワだらけの顔。

「ようこそ、笑いの滝へ。
 ここは、泣きすぎた人、怒りすぎた人、
 そして真面目すぎた人が立ち寄る場所だよ」

老人は、桶に笑い声をすくって
ライオに差し出しました。

「一口どうぞ。これは“元気の素”だ」

ライオはゴクンと飲みました。
すると、頭の中のモヤモヤが吹き飛び、
胸の中で小さな太鼓がドンドン鳴りだしました。

「ハッハッハッ! なんだこれは!」
「それが君の“本当の笑い”さ。
 笑いは、旅の燃料になる」

そう言って老人は、滝の裏にある
秘密の通路を指さしました。

「その先に、次の目的地“涙のチョコレート屋”がある。
 でも気をつけな…あそこは甘くて苦いぞ」

ライオは、笑いのエネルギーを胸いっぱいに詰めて、
滝の裏へと進んでいきました。




〈涙のチョコレート屋〉

滝の裏の通路を抜けると、
そこはしんと静まり返った町はずれ。
風もなく、空気が少しだけしっとりしていました。

道の先に、小さな灯りがひとつ。
近づくと、古びた木の看板に
銀色の文字が刻まれています。

涙のチョコレート屋

中に入ると、ふわりと甘い香り。
けれど、どこかほろ苦い匂いも混じっています。

店の奥から、黒いエプロンをつけた女性が現れました。
年齢はわからないけれど、
微笑みの奥に深い影をたたえています。

「いらっしゃい。
 ここでは“思い出”を材料にチョコレートを作るの」

彼女は棚から、
小瓶に入った“涙のしずく”を取り出しました。
ラベルには「悔し涙」「恋し涙」「別れ涙」など、
さまざまな名前が書かれています。

「どれを召し上がる?」

ライオは迷わず「恋し涙」を選びました。
女性は、それを溶かしたカカオに混ぜ込み、
小さなハート形のチョコを作ってくれました。

ひとくちかじると…
甘さが舌に広がったあと、
胸の奥からじんわり温かい痛みが広がります。
そして、なぜか目頭が熱くなりました。

女性が微笑みます。
「涙はね、舌ではなく心で味わうもの。
 そして食べ終わったとき、
 少しだけ優しくなれるの」

ライオは深くうなずきました。
笑いの滝で得た明るさと、
この店で得たやわらかな切なさが、
胸の中でひとつになっていきます。

店を出ると、
遠くの空にまた新しい道が伸びていました。
看板にはこう書かれています。

“風のトム”の野原まで、あと半日

ライオは歩き出しました。
甘くて苦いチョコレートの余韻を口に残しながら。




〈風のトム〉

半日かけて歩くうち、
空の色がだんだん変わってきました。
青でもない、灰色でもない、
まるで風そのものの色。

やがて野原に出ると、
そこには背の高い男が立っていました。
全身がマントのような風に包まれ、
髪は常にふわりと揺れています。

「おお、お前がライオ・ハッハだな」
男はにやりと笑いました。

「オレは風のトム。
 旅人の足を速めたり、
 時には立ち止まらせたりするのが仕事だ」

トムが手を振ると、
南からやさしい追い風が吹き、
ライオの背中を押しました。

「ほら、これが追い風。
 楽に進めるだろ?」

次の瞬間、
北から冷たい突風が吹きつけ、
ライオはよろけました。

「これが逆風。
 立ち向かうと息が苦しいけど、
 踏ん張れば足腰が強くなる」

ライオは笑って言いました。
「つまり君は、人生の“スピード調整役”ってわけだな」

トムは風を弱め、少し真剣な顔になりました。
「風はただ吹いているだけだ。
 でも受ける人の心次第で、
 追い風にも逆風にも変わるんだ」

ライオは頷きました。
笑いの滝で得た軽さ、
涙のチョコレートで得たやわらかさ、
そしてこの野原で学んだしなやかさ。

「よし、行ってこい。
 この先には“希望の丘”が待っている」

そう言うとトムは、
ライオの背中に一番気持ちのいい風を送ってくれました。

ライオは軽やかに丘へ向かいます。
その足音は、風と一緒に歌になって広がっていきました。





〈希望の丘〉

野原を抜けると、道はゆるやかな上り坂になりました。
遠くに見える丘は、淡い金色の草に包まれ、
頂上からは小さな光の粒が空へ舞い上がっています。

坂を登るほどに、不思議な感覚がライオを包みました。
足は重いのに、心はどんどん軽くなる。
胸の奥から、何かがふくらんでいくのです。

頂上にたどり着くと、そこには一本の大きな樹。
枝には無数の小瓶がぶら下がっており、
それぞれの瓶の中で、小さな光が瞬いています。

樹の根元に座っていた老人が、穏やかに微笑みました。
「ようこそ、希望の丘へ。
 この瓶のひとつひとつは、
 世界中の人の“まだ見ぬ未来”だよ」

ライオは瓶をひとつ手に取りました。
中の光は、笑いのように温かく、
涙のようにやさしく、
風のように自由に揺れています。

「旅で得たものを思い出してごらん」
老人の言葉に、ライオは目を閉じました。

——笑いの滝で得た軽さ。
——涙のチョコレート屋で得たやわらかさ。
——風のトムから教わったしなやかさ。

そのすべてが、ひとつの光となって胸に宿ります。

老人はうなずき、言いました。
「生命の王者とは、
 王冠をかぶる者ではない。
 笑いと涙と風を味方にして、
 どんな道も自分の足で歩く者のことだ」

ライオは深く息を吸い込み、
手にした瓶のふたを静かに開けました。
光は空へと昇り、
彼のこれからの道を照らしはじめます。

丘を下るライオの背中は、
もう“旅人”ではなく、