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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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サヨナラ俺たち

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うたた寝から目を覚ました俺は、夢の景色を拭い去ろう拭い去ろうとしてできない自分に、また溜息を吐いた。

あの日のことは、悪夢のようだった。いいや、現実なのだからもっと悪い。

「過ぎたことは仕方ない」

そう誰もが言った。俺は精一杯やったと自分を慰めようとしたが、それはできなかった。代わりに野球をやめてしまった。今ではアルバイトを転々としながら、体力頼みで毎日を続けている。

傍に居た長治はまだ寝ており、俺たちは昔仲間二人で俺の家に飲みに集まっていたのだと思い出した。その時、俺はまだ夢の中に居たのだと実感する。すると俺はまたスルリと夢の中へ戻り、夢を説明しようとした。


ボーク。ピッチャーが球を持っていてミットに構えた時、ピッチャーは投球版に足をつけていなければならない。でも、一塁三塁への牽制をするには必ず投球版から足をはずさなければならない。また、投球せずに構えをまた下ろせば、ボークとしてカウントされる。ピッチャーだけがするエラーだ。


俺は疲れていた。そしてあの日は暑過ぎた。そのことに気づき自分を戒めなければいけなかった。四回勝ち進めたことで俺は安心してしまい、自分に気づいていなかったのだ。


敗因はいつも自分に気づいていなかったこと。それは身に染みてわかっている。でもそのあとがもっと悪かった。


俺は、九回裏の失点という事実と、自分のミスが引き起こしたのだという気持ちに打ちのめされて、まるで投げる気がなくなりかけ、投げてはいたがさらに一点を許してしまった。チームを追い込んでしまった。誰も責めなかったのに。


その後俺は野球ができなくなった。野球をする自分を恥じるのが嫌だった。どんなに泣いても、野球が好きで好きで堪らなくて希望を持っていた俺は帰ってきてはくれなかった。俺は彼を裏切ってしまった気になり、余計できなくなった。

回想の途中で隣から声が聴こえてきた。

「ああ?起きてたんか。もう朝?」

「え」

俺は慌てて長治に言い訳をする。

「朝じゃねーよ、3時だよ」

すると長治は寝転がったまま腰を逸らせて後ろの時計を振り返り、「おろぉ?」と言った。まだ酔っているらしい。でも俺は長治の柔軟性が気になった。

「なあ、お前…まだストレッチしてんの?」

長治は一度噴き出してから元の体勢に戻って床に肘をつき、その上に頭を乗せた。

「んなわけねえだろ。もうしてないよ。最近始めたことはあるけどな?」

「始めたことって?」

てっきり運動だと思っていた。でも長治は勝ち誇ったように顎を上げてこう言う。

「ドラム」

途端に俺は叫ぶ。

「はあ?ドラム!?ドラムって、楽器だよな!?なんで!?」

別に長治を責めたいんじゃない。あまりに意外だったのだ。長治は俺よりも根っからの野球少年だった。長治は俺の言葉にどう返そうか迷っている。

「んー、だって趣味欲しいし、割と体動かせるもんが好きだし。あ、そうだ!お前ギターとか似合うんじゃねえの!?」

「まま待てよ!俺無理だって!ギターなんか!」

「なんだよ「なんか」とは。誰でも最初は初心者だぜ?俺だって初心者だ」

長治は大きくはあ~っと溜息を吐き、床にべったりと両腕を伏せて頭をくっつけてから、また起き上がった。

「一人でドラムだけやっててもつまんねーの。バンド組みたい」

「バンド!?」

俺は巻き起こり続けることに抵抗してしまったが、長治は押し切ってくれた。

「って言ったって、お前パンク好きじゃん。好きな曲演奏できたら~とか思わねえの?ラモーンズラモーンズってうるせえくせに」

「で、でも…俺なんかが…」

「俺も最初は続くのかなんてわかんなかったけど、簡単な曲なら結構できるぜ?そりゃ上手くできてるかは知らないけど」

「そ、そっか…じゃあ…」

「ラモーンズ、弾けるかもよ」



つづく
作品名:サヨナラ俺たち 作家名:桐生甘太郎