サボテンと檸檬
忘れもの
「実里?」
その日の放課後、学校が終わりいつものように校門を出て歩いていると後ろから聞き覚えのある声がした。
「健ちゃん!どうしてこんなところにいるの?」
「バイト先に忘れ物しちゃってさ。そういや言ってなかったよな。俺のバイト先、実里の大学の近くなんだ。」
知らなかった、と声に出すつもりが偶然会えたことに喜びを感じてしまいそれどころではなくなってしまった。
「そうだ、久しぶりに一緒に帰らない?話したいこと結構溜まってたし。」
「うん、いいよ。」
「じゃあ急いで荷物取ってくるからここで待ってて。すぐ向かう。」
「分かった。また後でね。」
もしかしたらこれはチャンスかもしれない。あつ子と話をしていたばかりということもあるけれど、今日伝えなければこの先もずっと言えない気がしてしまった。
私は携帯を強く握りしめ、彼の姿を待ち続けた。