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サボテンと檸檬

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はじまり




サボテンが枯れた。

日が沈み始めた大晦日の夕刻、二週間ほど前から友人に借りているサボテンが枯れているのを大掃除の最中にたまたま見つけてしまった。

「どうしよう。」

内心、かなり焦っていた。
 “ただのサボテン”なら(こう言ってしまうとただのサボテンに失礼だけれど)同じ種類のものを買ってバレない様に返していたと思うし、最早、そんなことをしなくてもきっと『健ちゃん』なら許してくれただろう。

だが、今回は別件である。
このサボテンは、健ちゃんが先月まで付き合っていた彼女、所謂【元カノ】が大事に育てていたサボテンなのだ。
しかし、そのサボテンを一緒に住んでいた健ちゃんの家に置き去りにしたまま彼女は家を後にした。
それから彼女の代わりに健ちゃんがサボテンを育てている。

思い入れのある大切なものと知りながらも授業でどうしてもサボテンの写真が必要となり、真っ先に思い浮かんだのが幼馴染の健ちゃんの顔だった為にお願いをして借りてしまった。彼女の相談をよく健ちゃんから聞いていたのでサボテンの存在は知っていた。
悪いとは思っていたけれど、私の家には植物自体がそもそもないしわざわざ買うにも気が引けてしまったのだ。

そして絵に描いたように枯らした。
(今年最後の日に私は一体何をやっているのだろう。)

部屋着として使っている高校時代のジャージのポケットから携帯を取り出し健ちゃんのLINEのトーク画面を開いた。
謝罪の言葉を送ったあと、根腐れでブヨブヨになっているサボテンの写真もそっと添えた。
もしかしたらもう一生口を聞いてくれないことになるかもしれない。そんな不安を抱えつつ、掃除機のスイッチを入れ直しホーム画面に戻ろうとしたその時、健ちゃんから返信が来た。

「これでやっと元カノとの縁が切れたのかも。むしろ、ありがとうね。」
 
彼の優しさが私は昔から嫌いだった。
 
 
 
作品名:サボテンと檸檬 作家名:melco.