Faff
ツグミは思わず、外に巻いた髪に触れた。十五年前に、『明日からここで働くの?』と訊いたその明日が、今日になった。二人から解放されたツグミは、食堂でパフェをスローモーションで食べているカラスを見つけ、ブラックコーヒーをカウンターで受け取ってから、向かいに座った。
「おー、おつおつ。終わった?」
カラスが訊き、ツグミはうなずいた。この組織に身を置いている以上、その寿命が短くて結末があっけないことぐらいは、理解している。でも、カラスが『ご安全に』と言ってウィンクをする姿を見ていると、そんな日が来るかもしれないと考えること自体が、馬鹿らしく思えてくる。ツグミはコーヒーをひと口飲むと、顔を上げた。目が合うなり、カラスは表情を引き締めて顔を作ると、口角を上げた。
「惚れる?」
「早く食べな」
ツグミはそう言うと、コーヒーカップを静かに置いた。今のこの瞬間だって、何かの終わりであることには間違いないけれど、カラスと向かい合わせに座っているとそんな気はしないし、むしろ真逆のことを考えてしまう。
毎日懲りずにやってくるこの朝が、少なくとも何かの始まりなのだと。