旅エッセイー東北紀行
以前腹腔鏡手術をした時の癒着で、腸閉塞を起こしたことがあるのだが、どうもその兆候らしいと言う。即、宿に戻ってキャンセルし東京に戻ることに。
ナビで検索した最速経路が常磐道を通るコースだったのだが、これが最悪だった。東北道を選ぶべきだったのだ。なにしろ南相馬のあたりから浪江町、双葉町、大熊町のあたりが汚染区域でパーキングが一つもない。道路わきには所々その場所の放射能が0.4マイクロシーベルト、などと表示される電光板があり、下道に降りることも叶わない。運転手はじわじわと詰まってくる胃腸からの吐き気に耐え、一刻も早くトイレに行きたくて時速100キロで飛ばしている。しかも常磐道は対面通行なのだ。本人も辛いが助手席にいる人間も冷汗ものだ。万が一しくじったら他人様をも巻き込む大事故になってしまう。生きた心地がしないとはこのことだ。
やっと最初のパーキングにたどり着き、トイレに駆け込んで事なきを得た夫だが、少し持ち直したものの、それから自宅までがまだまだ長い。深夜に帰りつき救急車を呼び、行きつけの病院に即入院。イレウス管を鼻から挿入され腹の中のものを排出し少し楽になったようだ。この時期、救急入り口でコロナの検査待ちがあり、その他検査や諸手続きがあり、私は深夜というより未明近くに漸く解放された。疲れ果てたのは言うまでもない。翌日からは入院に必要なあれこれと着替えの洗濯で連日往復することになった。腹部に手術歴がある人間は旅先の食べ物には本当に気を付けなければならないなあ。
作品名:旅エッセイー東北紀行 作家名:鈴木りん