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僕はずっと

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女の子のしゃっくりを止めたら、その子と両想いになれた! そんなこと起こるかな?
 休み時間の教室。僕鈴木真は、バルトルト(本名は晴雄)と話しながら、少し向こうで本を読む女の子を気にしていた。
「……マコト? 聞いてる?」
 バルトルトの問いに、僕はメガネを直して答えた。
「幽霊公爵ね。弱点は睡眠系の魔法だから……」
 が、やはり僕はその女の子、佐藤円さんを気にしていた。
 佐藤さんは中学に入って知って間も無い、ただのクラスメイト。本を読むのが好きらしく、僕と同じく体育が苦手らしい。
 その佐藤さんが少し前に「ひっく」と音をさせたのを、僕は聞いた。以来、音をさせないように頑張っているみたいだ。
 が、全身の揺れは隠せない。授業が始まれば、きっと目立つ。
 僕が驚かせたら、しゃっくりが止まるかな? でも、僕に関わられても嫌だろうな。僕はずっと、だめな人間なんだから。
「マコト?」
 しかし、だ。財布を拾ったとして、届けるのが人気者だとか人気者じゃないとか問題かな? いいことは誰がしたって、いいことでは?
 休み時間も残り数分。僕は、佐藤さんを助けたい……だから思い切って、近づいて声を上げた。
「……わっ!」
 佐藤さんは、びくっ! とした。
 それから僕のほうを向いて……戸惑った顔を見せた。
「しゃっくりを止めてあげたくて」
 説明する僕に、佐藤さんは小さく答えた。
「ありがとう……でも」
「何してるの鈴木くん?」
 脇から、女子たちがやってきた。
「えっと、しゃっくりを……」
 と、何と、佐藤さんは泣き出してしまった!
「みんな! 鈴木くんが、佐藤さんにヘンなことした!」
 女子の一人が叫んで、注目が集まる。
「違う! 僕はただ佐藤さんのしゃっくりを」
「そんなの出てないよ!」
 佐藤さんは、確かに、もうしゃっくりをしていなかった。
 教室がざわめく。
「だから、僕が驚かせて……」
「何だ何だ?」
「おい鈴木! おまえおかしいんじゃないか?」
「やっちまえ!」
 僕はみんなに囲まれて、殴られて倒れて、メッタ蹴りにされた。
「ちがっ! ほげっ!」

「わあっ!」
 僕の前に、見慣れた景色があった。顔や体に痛みは無かった。そこは僕の部屋で、僕は夢を見ただけだった。
 前日のこと。実際は、僕はバルトルトとゲームの話をし続けて、授業開始後先生が「佐藤さん、しゃっくり?」と軽くいじって、みんなが少し笑っただけだった。
 それが当たり前のことだった。

 その日の帰り道。開き始めたアジサイ。
 僕を見捨てたバルトルトが笑う。
「よく分からないけど、その夢の僕は僕じゃないよ。じゃ、また塾で」
 僕たちは帰宅部で、ゲーム、夕食、曜日による塾がお決まりだ。
 別れて、僕は神社を横切る。鳥居の脇、手水屋の脇を抜けて裏の出入り口へ。
 その途中に、一個の空き缶があった。きれいな境内に、不相応なゴミ。
 それを拾って、僕は声をかけられた。
「偉い」
 声のほう、本殿のほうを見たが、誰もいない。
 戸惑う僕に、声は続けた。
「わしは神様じゃ。前にも、ゴミを拾ってくれたな?」
「……はい」
「おまえには今、好きな女の子がいる。でも声をかけられない」
 僕は、うれしくなった。
「何とかしてくれるんですね?」
「神頼みは最後じゃ! どうすればいいと思うか、まず答えよ!」
 ……僕は、しゅんとした。
 僕はずっと、だめな人間だから。
 僕の才能は、そろばんと勉強に少しだけあったみたい。でも、他に何かできたことも無い。メガネで、太くて、ゲームするだけだった。
「走れ」
 僕は、ぽかんとした。
「特に病気も無いから、走る生活をせよ」
 僕はうつむいた。
「陸上部なら、僕は仲間にしてもらえません」
「陸上部じゃないと走れないと、誰が言った?」
 僕が黙ると、神様は続けた。
「進んで行動することが、本当に生きるということじゃ。早朝の道路、夕方の堤防、好きなのを走れ。雨なら家でもも上げせよ。週四日走って、週三日は筋トレじゃ」
 僕は黙っている。
「おまえは、サッカーもバスケットもだめじゃろ?」
「……僕は仲間外れだし、やるだけムダなんです」
「おまえは、ジャグリングをやれ。ボールを買って、やり方は検索でも何でもして、毎日練習せよ」
 ジャグリング。僕にも、イメージは分かる。ピエロがやるようなあれだ。
「……僕には、運動神経がありません。将来サーカスに入りたくもありません」
 神様のアドバイスでも、しかたの無い、僕の正直な気持ちだった。
「では、これでどうか? おまえが好きな女の子に、来年一月の最後の登校日、わしがしゃっくりをさせる。それまでにおまえがわしの言ったとおりにしてあったら、しゃっくりを止めて両想いになれると約束しよう」
「本当ですか?」
 あと、八か月だ。
「それともう一つ、記録を付けよ。進歩が判るからな」

 僕の前に、見慣れた景色があった。そこは僕の部屋で、僕は夢を見ただけだった。
 前日のこと。実際は、僕は境内で空き缶を拾って、先にある自動販売機脇のボックスに入れただけだった。
 それにしても、奇妙な夢だった。

 僕は、半信半疑で夢のとおりにし始めた。
 目立ちたくないので、早朝の堤防を走ることにした。雨の日には、家の中で足踏みしたり、曜日を変えて走ったりした。腕立て伏せや腹筋もやった。
 すると、体を動かすのがどんどんラクになり、体組成計の数値もどんどんよくなっていった。体脂肪率というのが減り、逆に骨格筋率というのが増えていった。
 僕が、変わることができるなんて!
 ジャグリングは、お小遣いを使って、三つで二千円のボールを買った。こちらも、インターネットを検索しながらやってみると、全くだめだった。やっぱりだめかと思った。
 が……動画の先生が言うとおり、二時間も粘ると三つのボールを回せるようになってきた。
 僕に、こんなことができるなんて!
 僕は、感動した。僕にも、運動神経があったのだ。
 ドッジボール以来、ボールは僕に恥をかかせるだけの敵だった。それが、ついに仲間になってくれたのだ。
 うれしくて、夏休みにも頑張って取り組んだ。できる技の数もレベルも上がって、回しながら脚の下をくぐらせられるようにもなった。
 半年もすると、背中から投げて回せるようにもなった。

 僕は思い切って、バルトルト、キーツ、ミッチーとオカくんを誘って、僕の中学校にジャグリング部を作った。
 練習場所は中庭の隅っこ、あるいは家庭科室。
 すると、運動部のメンバーが、冷やかしに来ることもあった。
 ところが、彼らの誰もが、最初の僕と同じだった。ボールを落とし続け、明後日の方向に投げ続けた。そして、
「将来サーカスに入りたいわけじゃないよ」
 そう言って去り、
「練習すれば俺もできそうなんだけど」
 そう言って去った。
 僕は、彼らと僕は同じなんだと解った。
 涙が出そうだった。

       *

 年が明け、神様が言った一月最後の登校日。報われるはずの日がやってきた。
 さて、僕は佐藤さんを気にしていたが、しゃっくりする気配も無い。授業中にも、休み時間にも全くしない。
 廊下を歩く校長先生が、大きなくしゃみをしたぐらいだ。
作品名:僕はずっと 作家名:Dewdrop