勘違い
「場所を移ろっか。泣かないで、傷は僕でよければ全部治すから……わっ! 本当にごめん! どうか泣き止んで佐藤さん……」
凜は泣き止まなかった。涙があふれた。
往時の悪口「バカ」は、凜が最近の成績を語り、律が褒めて癒された。「泣き虫は家にいろ」も、律が凜と映画に、遊園地に行きたいと言い、実際に行って癒された。
律は身のこなしに力があって、当初凜には怖かった。が、律は実際あたたかい想いを持っていて、熱心に相談に乗ろう、笑わせようとしてくれた。律の力が放つ怖さも、頼もしさに変わっていった。
律は、凜を文化祭に呼んでライブを披露してくれ、クラシックギターを抱えてきて公園のベンチで弾き語りもしてくれた。凜が大好きであり、律がかつてバカにしたアイドル、イブキの曲。本物に及ばなくも、十分な技量だったので凜は素直に喜んだ。
往時の悪口「現実から逃げて一生ひとりだ」は、律が凜の彼氏になりたいと言い、凜が応じて癒された。「ばい菌」も、律が凜の手を握りたいと言い、凜が応じて癒された。
再会から半年を経て、街にクリスマスのイルミネーション。空気は冷たくても、つないだ手はあたたかかった。
凜の父はあいかわらずだったが、律がいてくれて、乗り切れると信じられた。
生まれてから、つらいことがいっぱいあった。報われる時を何とか信じてやってきて、凜はそこに着いたのだった。
凜は、並んで歩く律の顔を見上げた。
「ねえ律くん」
凜のほうを向いた律に、凜は往時を思い出して尋ねた。
「律くんは、子どもにも中学受験させたいと思う?」
と、律は顔の赤みを増した。
「もうそういう話する?」
「……えっ?」
少女も、ひどく顔を熱くした。
(了)