シャク(続・おしゃべりさんのひとり言187)
それを知ったのは、お城を見学してそのトイレ事情について聞いたのがきっかけだ。
昔は高いところ(天守閣とか)で用を足す時、トイレ(雪隠)に入って、その床からはるか下に落とすという『ぼっとん便所』。
この方式は、世界中のお城や宮殿でも採用されていた。
じゃ、落とした糞便はどうするの?
それ、使用人が集めて捨てに行くんだよ。でもね、西洋の宮殿とかはものすごく建物が大きかったり、敷地が広かったりするから、トイレに行かずに部屋の隅で用を足してしまったり、窓から外に放り投げるってことも横行してたみたい。(嘘みたいな話!)
それは街中の住居でも同じ。パリやロンドンといった大都市は、石造りのアパートメントが多く建てられていて、どの居住者も窓から便を道路に投げ捨ててたんだそうだ。(これは地獄絵図だ!)
全く信じられん状況。禁止する法律もあったそうだけど、結局は衛生状態は改善できなかったらしい。それじゃ間違いなく、伝染病や寄生虫のリスクは高かったろう。
その当時、江戸の人口は世界最大になっていて、糞便の量はとてつもなく多かった。
でも西洋と違って、江戸の人はその糞便を資源として活用、つまり肥料として農村に売られていたから、町の衛生状態は悪くならなかったってことらしい。
(西洋でもそうすればよかったじゃん)って思ったけど、あっちはヒツジやヤギの飼育で十分な肥料が確保できていたから、人糞を使用するに至らなかったんだって。
糞を活用するって概念から、衛生的に完全に隔離する対象じゃなったのかもしれませんね。
(昔って、無茶苦茶なことが結構普通だったり・・・)あれ? そう言えば僕も、似たような状況を目にしたことがある。
昔は道端で立ちションや、野糞してる人もいた。見たことあるわ。
どの種類の葉っぱが拭きやすいかとか、ノウハウを語る大人がいたもん。
そんな話、知ってる人は50代以上だろうな。日本じゃもうそんなことする人もいないだろうけど。
でも今から十数年前のこと、僕は中国の企業が大工場を建設中の現場に、日本から運んだ装置を搬入するためによく出張してた。
現地の建築業者が常駐している仮設事務所の廊下内で、堂々と立ちションしてる男がいた。外は寒いので仮設トイレに行きたくない様子だった。
また、その工場は最先端の半導体製造施設で、クリーンルームという空気中に塵やホコリがほぼない状態を維持しないといけないエリアも建設中だった。
僕は国内外でそんな施設によく行ってたから、当たり前にクリーン度を保つルールを順守しながら、僕らの装置をセットアップしていたんだけど、その機械の裏側で、ゴム手袋に尿が詰められて放置されてるのを見つけたことがあった。
僕が受けた入構初日のルール教育では、『クリーンルーム内で脱糞禁止』ってとんでもない注意喚起があって、実際にお尻を出してウンチしてる現場をとらえた監視カメラの写真が添えられてた。
日本人には信じ難いマナーの悪さも、その国のトイレ事情の歴史を振り返ればそういう常識もあるのかな?
実際に中国の田舎町で古いトイレに入ると個室が無くて、いや便器自体が無くて、オープンな通路の溝に数人が縦並びでお尻を出して、気張ってるシーンを目にすることもあったし、トイレ事情はかなり違うんだろう。
日本でも昭和の時代(S50年代頃)には、まだ糞尿をドブ川に垂れ流してる家ってあった気がする。
母さんの実家に行く列車のトイレでは、便器の穴から線路が見えてて、揺れて落ちないように、母さんに支えられながらウンチしてたことも思い出した。
昭和の新興住宅街に住んでた僕は、近くにまだ田畑がいっぱいあったので、そこが遊び場所になってたけど、その所どころには『野壺』があったんだ。所謂『肥溜め』だ。
それはもうほとんど使われてなかっただろうけど、もともとはそこに糞尿を貯めておいて、熟成させて畑に撒いてたんだろうと思う。
雨水がたまって、カエルやザリガニがいっぱいいたけど、汚いからそこでは獲らなかった。でも結構そこに落ちる子供はいたな。
父さんの実家は茅葺屋根の古民家で、トイレは離れにあるぼっとん便所だった。
僕は下に落ちないか怖かった。その下は直接肥溜めになっていて、それをじいさんが大きな柄杓で汲み取って、天秤棒に大きなバケツを二つぶら下げて畑に持って行ってた。
つまりその人糞を肥料として利用していたんだ。
僕も園芸には興味あるから肥料の成分にはある程度の知識があるけど、それを人糞で賄うとなると、食事の栄養にも気を付けないと・・・?
当時もよくその畑のイチゴを食べてたけど、しっかり洗ってくれてたのかな?
こんなんだから、糞尿を肥やしに活用していた時代には、便から出た寄生虫の卵が、畑の野菜に付着して、また口から入って寄生虫がお腹で孵る、寄生虫のSDGs。
だから幼稚園の時は、ぎょう虫検査があったな。毎年1回、便をマッチ箱に入れて持って行ってたよ。
小学校になると、青いセロファンみたいなシートにお尻から検体を採って持って行ってたし、実際、ぎょう虫のいる子供も多かったってことだろ。
さすがに今の時代、寄生虫をお腹に飼ってる人って、ほぼ皆無だろうけど、たまにそんな寄生虫被害があったってニュースで聞くよね。
海の魚に多いアニサキスでも、お腹に激痛が出るらしいし。
じゃあ、その患者の病名は何というんだ? 寄生虫症?
それこそ『シャク』って呼べるんじゃないかな。
つづく
作品名:シャク(続・おしゃべりさんのひとり言187) 作家名:亨利(ヘンリー)