一富士二鷹三茄子?(続・おしゃべりさんのひとり言183)
一富士二鷹三茄子?
正月って、“おめでたい”ですよね・・・おめでたいこと、したくなりませんか?
そのつもりが勘違いしてて、(しょぼん)てなっちゃった。
昨年、両親共が他界したから、初詣に行くこともできないで、今年の正月は暇で仕方なかったんだ。
どこかに出かけようと思ったんだけど、どこのお店も閉まってるでしょ。
お店じゃないところで(何か楽しいことないかな?)って考えてると、(You Tubeに紹介されてた近場の絶景スポットにでも行ってみよう)って思って、そんな動画を見返してたんです。
すると滋賀県の長浜市北部の山に『オオワシ』が越冬に来てるって動画があって、それに興味をそそられました。
僕は以前『イヌワシ』というのを見に、滋賀と岐阜の県境にそびえる伊吹山に出向いたこともあったけど、大自然の中を悠々と飛ぶその姿に感動したことを思い出して、オオワシなるものもぜひ拝見したいと思いました。
ところでオオワシってどんな鳥?
大きな鷲だってことはわかるけど、それって珍しいの?
調べてみると、体長1メートルくらいの大型で、羽を広げると2.5メートル以上にもなる最大級の鷲なんだそう。
そんなのがカムチャツカとかに生息していて、真冬の間だけ日本にまで越冬しに来るのだそう。
写真を探せば、大きな黒い翼に白い羽根があって、カッコいい模様をしています。鷲って茶色いイメージの鳥でしたけど、全然違う美しい姿をしていました。(扉絵の写真参照)
これはますます見てみたい。
北海道で撮影された写真では、数羽が群れのように木に留まっていました。
じゃ(滋賀に来てる個体は何羽くらいだろう?)って思って調べると、なんと一羽だけ。
通常、南下限度は北海道くらいまでで、稀に東北の一部にまでやってくるのがやっとらしいのです。
なのに、過去数年間同じ個体が、毎年琵琶湖に姿を見せ続けているそうで、一体そこの何が気に入ったというのでしょう?
これは絶対見てみたい。
僕は一月二日の朝から車を走らせて、妻と一緒にそれを探しに行くことにしました。
そうは言うものの、(見付けるの大変そう)と思うでしょ?
そうでもないんですよ。You Tubeには、大勢の方がカメラの三脚を立てて待ち構えてるスポットが映ってたんで、Google Mapで(大体この辺か)って場所が特定できたんです。
これなら絶対に見ることができる。
名神高速をひた走り野洲市に差し掛かると、通称『近江富士』と呼ばれる形のいい山が朝日に映えるのを正面に見て、「富士山の初日の出なら、めでたいのに」とか話しながら、僕らは10時頃、長浜市北部の現場に着きました。
山が近い湖岸道路の歩道にカメラマンの集団がいたので、すぐにこの山だって分かりました。
この山は『山本山』というそうです。(海苔屋さんみたいでなんか笑える)
周辺には集落や田んぼもあるけど、駐車してもよさそうな場所がありません。緑地公園のガレージも満車です。
仕方なく、少し離れた港の駐車場に停めさせてもらいました。そこから歩いて現場に向かうのですが、その道すがら閑静な集落の中を歩いていると、何人かの地元の方たちと目が合って、皆さんにこやかに挨拶をしてくださいます。
正月なので、実家に帰ってきた近所の夫婦と勘違いされているようでした。それでも正月早々気持ちのいいものです。僕はもうすぐオオワシが見られると思って、ワクワクしてますし。
そしてそんな道すがら、僕はハッとして叫びました。
「おった!」
妻が慌てて僕を見て、前方を見渡します。
「どこどこ?」
茶色やグレーがかった遠くの山の景色の中に、明らかに目立つ白い模様が見えたんです。山の中腹にある枯れた大木の枝に、そのオオワシが留まっているのが。
周囲にはカラスやトンビが威嚇して近寄ったり、弧を描いて旋回したりしていますが、意に介さない様子。
もう少し歩くと大勢のカメラマン達が、いい角度からカメラを構えておられます。
距離にして300メートルくらいでしょう。皆さん雑談しながら、シャッターチャンスを待っておられるのです。
そのオオワシは湖を見ていました。
肉眼では、ほんの点くらいにしか見えませんが、僕は視力が2.0くらいなので、その鷲がどこを見ているのかも見えます。妻もそうです。
時々翼を広げたりもしていますので(もう飛ぶんじゃないか?)って思っていました。
でもすぐ横にいたカメラマンの男性が、望遠レンズを覗きながら溜め息をつかれています。
「あかんなぁ」そう言われたので、
「飛びそうにないですか?」と僕が聞くと、
「うん、風がないしなぁ」
あれくらい大きな鳥は、風が強く吹いていないとなかなか飛び立たないらしいです。
確かに琵琶湖に波もほとんど立っていません。
「朝に一回飛んだんやけどエサが取れんかったし、また飛ぶはずなんやけどなぁ」
と聞いて、僕たちはそれに期待するしかありませんよね。
ま、枝の上のオオワシの写真を何枚も撮る必要もなく、僕ら夫婦はカメラを首から下げて、只々(飛べぇ~)と念じながら一時間以上待ちました。
でも妻が「寒いわ」と言うので、仕方なく僕らは諦めて切り上げることにしたんです。
遠目にでもオオワシに逢うことができたんで、それで十分満足ということで。
その後は車で長浜市街まで移動して、お昼ご飯を食べて帰ろうとしたんですが、その道中の内陸の田んぼに、白鳥がものすごい数いるじゃないですか。数百羽はいたと思います。
これは止まって、観察するしかないでしょう。
種類は多分コハクチョウです。琵琶湖に来ているのは知っていましたし、昼間は越冬地の池やビオトープからエサを探して飛び回ることも知っています。
でも、なんでこの田んぼにだけ集まってるの? いくらでも周囲に水場はあるのに。
サッカーグラウンド一面分くらいのその周辺の田んぼにだけ水が張ってあったからでしょうかね?
3メートルくらいの距離に近付いて撮影しても、平気で「ワッワッワー」って鳴きながら泥水に顔を突っ込んで、何かを探して食べているようです。
そのうちに20羽くらいが、一斉に飛び立って僕らの頭上を越えて、大きく円を描くように行ったり来たりしながら、また同じ田んぼに行列で戻ってくる。
そしてまた別の集団がそんなことを繰り返すのを見てると、オオワシが飛ばなかった分のフラストレーションも解消です。
田んぼの畦道に立って見ていたら、日が陰り風が吹き始めてきました。
(今ならオオワシも飛んでるんじゃないかな?)
そう思ったけど、もう寒くてたまらなかったので、ご飯だけ食べて帰ることにしました。
正月に営業してるレストランを探すのに苦労したけど、なんとか中華のファミレスチェーンを見付けて、僕は酢豚を食べました。それは中にお茄子が入っていたからです。
解ります? 美しい近江富士を見て、珍しいオオワシを見て、茄子を美味しく食べた。
「これで『一富士、二鷹、三茄子』ってことで、正月から縁起がいいな」とか話してたんですよね。テンションアゲアゲで。
ふつうそれらは初夢で見るものらしいけど、予定外の白鳥の舞まで見物出来て、(誰に自慢しようかな?)とか考えちゃって、大満足のお正月でしたね。
ということなんですが・・・
作品名:一富士二鷹三茄子?(続・おしゃべりさんのひとり言183) 作家名:亨利(ヘンリー)