Septum
おれは一時間前のことを思い出していた。服のシルエットで、衛星からでもすぐに分かったのだろう。間が空き、片岡はいつもの皮肉めいた笑顔を浮かべると、おれの方を向いた。
「いつまで待っても爆発しないから、早くしろと思ってたらこれだよ」
「続きが待ち遠しいなら、いつでも離すぞ」
おれが言うと、片岡は眉をひょいと上げて笑った。同時に、花屋の作業服を着た四人組がおれの周りをぐるりと囲み、リーダーらしい男が死体の上着をそろりと開いて、中に詰め込まれたパイプ型の炸薬を確認し始めた。もうひとりが発電機を鞄から取り出して顔を上げ、片岡に言った。
「回路をこっちにバイパスさせます」
片岡はうなずくと、おれの方を向いた。
「退職しようが、仲間は仲間だ。この福利厚生は、死ぬまで続くと思ってくれ」
「あの、片岡さん」
花屋のリーダーが言った。おれ達が注目すると、リーダーは申し訳なさそうに顔を上げた。
「すみません、気が散るので……」
「はいはい」
片岡は立ち上がると、おれに言った。
「裏手にカフェがある。終わったら、コーヒーでもどうだ?」
「向かいにもあるぞ」
エントランスの方を向いておれが言うと、片岡は笑った。おれには、皮肉屋の口からどんな答えが返ってくるか、もう分かっていた。
「向かいだと、爆風が届くだろ。ガラスの破片を被りたくない」
四人組が笑い、おれも笑った。なんとなく全員に自己紹介をしたくなって、おれは言った。
「命がけのところ申し訳ないけど、おれは十年前に終わった人間だぞ」
その言葉に片岡が振り返り、おれが右手に持ったままのグロック19と、死体とそこから伸びる右手に重なるおれの左手を見て、口角を上げた。
「そうかな? まあ、そう言い聞かせてろよ」