頭痛(続・おしゃべりさんのひとり言182)
今から十年以上前、頻繁に頭痛に悩まされていた時期があったんです。
各種の対処法を実践してみたけど効果がなく、小児用バファリンのお世話になって痛みを和らげるくらいしか手はありませんでした。
マッサージ師をしてる義弟に相談して、肩から首周辺を診てもらったけど効果はなく、只々我慢する日が半年くらい続いていたと思います。
更に奥歯に違和感が出始めて。でも虫歯じゃないし、滲みるわけでもなく、只々鈍痛が。
僕は顎関節症の気があったので、頭痛を我慢していることで、奥歯を噛みしめて顎や首周辺に影響が出たんだと思いました。でも治す方法が分かりません。
それでついに外科医院を訪れました。
「首のレントゲンは正常ですね」
普通それを聞いたら安心すると思いますが、もうその時の僕は、原因となる異常が見付かったほうが嬉しいくらいでした。
「奥歯が痛いのなら、噛み合わせかもしれません」
(噛み合わせ?)
僕は歯並びがいい方なので、そんなこと疑ったことがなかったんです。
それで最後の望みをかけて、歯医者に行くことにしました。
歯医者さんは苦手です。子供の頃、虫歯で行くとよく怒られてましたから。大人になっても、歯医者にいい思い出なんかありませんものね。
僕は、前歯が一本折れてしまって差し歯を入れています。それと下の奥歯の手前くらいが虫歯になって1本抜いていました。他は多少の虫歯治療で詰め物があるけど、親知らずが生えた時も特に痛みもなく、歯に不具合なんか感じたことはありません。
「親知らず抜いてみましょうか」
「え? 抜く必要ありますか?」
「噛み合わせが原因だったら、こいつですよ」
その歯科医が言うには、右上の一番奥の歯が、やや斜めに生えていたんだそうです。
舌で触ってみても全く気付きませんでした。
「親知らずを抜いても、あまり咀嚼に影響ないですから」
「はぁ。おねがいします・・・」
心の準備も何もなく、すぐ抜くことになりました。
僕は以前、下の奥歯を抜いた時、うまく抜けずに出血し、帰宅しても血が止まらず一晩中垂れ流して、翌日に救急病院へ搬送されたことがあるんです。
「血が止まりにくい体質みたいなんですが」
「でも上の親知らずなら簡単に抜けますよ。血もあまり出ないと思います」
歯科医はそう言うけど、親知らず抜くんでしょ。本当に心配です。
診察台に横になったまま、奥歯に麻酔注射が3か所ほど打たれました。
そう言えば僕、麻酔も効きにくい体質なんです。(短編作品『僕か君は、がんで死ぬ。』参照)
もう不安しかありません。(力いっぱい我慢しないといけないんだろうな)
歯科医に奥歯をコチョコチョとされているのを感じながら、目をつむってその時に備えていました。
きっと、大きく口を開けてぎゅっと目に力を入れている顔は、面白かったでしょうね。
「これ持って帰りますか?」
「へぇ?」
「抜いた歯」
「へ・・・え?」
目を開けるともう抜歯が済んでいて、ペンチみたいな道具で僕の親知らずをつまんでるのが見えました。
呆気にとられながら、舌で奥歯をなぞると、もうそこにはありませんでした。
一体いつの間に抜いたんだか、全く気付きませんでしたよ。(凄腕に感謝)
出血も少なく、僕の心配は取り越し苦労だったようです。
抜いた親知らずには磨いたみたいにピカピカの部分がありましたし、きっとその部分がよく擦れて邪魔だったんでしょう。
あの日以来、頭痛は一切無くなりました。
かき氷食べた時を除いて。
つづく
作品名:頭痛(続・おしゃべりさんのひとり言182) 作家名:亨利(ヘンリー)