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ヤマト航海日誌8

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何を言ってんだお前、と言われるかもしれないけれど、君はそれを見たことがあるのか。見てないなら教えてやるが、その映画はまず貧しい若者が、下層の民を虫ケラのように見ている貴族に親を殺されるところから始まる。
 
ただ虫ケラを踏み潰すようにだ。彼は銃を手に復讐に向かうが、そこで若い娘に出会う。彼女は彼に言うのだった。「あなたは土地が欲しくないか。海を渡ったアメリカに土地をタダでくれるところがある。わたしはそこに行きたいのだが、女の一人旅はできない。旅費を出すから一緒に来てくれないか」と。どうだわかるかね。〈土地をタダでくれる〉というのを〈機械の体をタダでくれる〉に変えたらまるきり『999』のプロットじゃないか。
 
で、船に乗りアメリカに着いて、降りたボストンは大四畳半惑星みたいな街だった。ふたりは旅費を盗まれて目的の地へ行けなくなり、安下宿と仕事にどうにかありつくことでひとつの小部屋で共に暮らすようになる。
 
のだがトムが演じる主役は男おいどんなやつなので、むしろ街が気に入ってしまう。もう土地なんかいいやという気になるがそれも幻影で、ふたりはまたすべてを失くして冬の道におっぽり出される。毛布一枚に身をくるみながら雪の降る中を歩くことに。
 
で、彼女は豪勢な屋敷に住む金持ちに背中を銃で撃たれるのだ。そうだ。鉄郎の母のようにだ。主人公はそれから映画版鉄郎のようにひとりで生きて亡き親への今際の誓いを果たすため土地をタダでくれる場所への旅を続けてたどり着くが、けれどもそこで話には裏があったのを知ることになる。
 
土地を己のものとするには命懸けのレースに挑んで勝たなければならないというのだ。そしてその彼の前に、宿敵の機械伯爵みたいなやつが立ちはだかる。勝ち目のほぼない、敗けるとわかっている戦いを彼はやらねばならないのだった……。
 
という。ねえ、どうですか。これでもおれに何言ってんだお前バカかと言う気か君は。これはスリーナインだろう。9がみっつ並んでるだろ。『遙かなる大地へ』は999である。トム・クルーズがはたちの星野鉄郎を演じたわが青春のアルカディア映画なのである。
 
だから傑作でよく見て「ボクが間違ってましたこれこそがトムの最高作です」と君は言わねばならないのだ。おれがそう言ってんだからそうなのであり、「そんなことはない」と言うのは許さん。だから大体おれにはそもそもこれを悪く言うやつが悪く言う理由ってのが「トム・クルーズが貧乏人の農夫を演じるのがよくない。パイロットとか弁護士だとか、『ラヂオの時間』て映画の中のラジオドラマみたいに派手な職種のキャラを演るんじゃなくちゃトムはダメでしょ」だとか言ってるようにしか感じられずきていたのであり、そこが大いに不満なのだ。『レインマン』もなんだ。『卒業白書』のバカ息子があのまま大学に入って出てからカウンタックなんていうバカしか買わねえようなクルマを売る人間になってる話。『ラヂオの時間』で井上順が演じた役だろ。ほら、だから、キネ旬なんかが褒める映画にろくなもんはねえって言っているだろう。ポルシェとかカウンタックに乗ってるような人間はみんな背中をライフルで撃って殺してやってよろしい。
 
でもってそれを剥製にして壁に飾ってやってよろしい。ザマ見ろだ。ロン・ハワードが『遙か』の前に撮った『バックドラフト』の主人公もカウンタック売りな野郎だったな。まあこっちの映画も好きだしあれはそんな生活をやめて亡き父親と同じ消防士の道を選び進もうとする若者の話であったりもする。
 
だからもちろんいいのはいいし『遙か』と違って人気もあって消防士の映画と言えばコレということになってるらしく、別に異論もないんだけれどおれとしては『遙か』と比べてやっぱり劣ると言うしかなくなる。『バックドラフト』ももちろんいいが『遙か』の方がもっといいぜ、これも見ろよと言いたくなる。
 
『バックドラフト』はウィリアム・ボールドウィンが演じるカウンタック主人公の消防士成長ドラマとして見るぶんには素晴らしい。その点では『遙か』の鉄郎ドラマより確かに上であるだろう。けれども連続放火殺人の謎を追うミステリとしてはお粗末だし、JJリーとデモーネイが演じるふたりの女が話の添え物でしかない。
 
まるでカレーの福神漬か牛丼の紅生姜のようなもんでしかない。クライマックスの大火災もストーリーの必然で起こるわけでなく放火殺人の犯人が推理や捜査の結果でなくたまたま偶然わかったその二秒後にたまたまスジと無関係に偶然起こるもんでしかない。
 
そういうシナリオはおれとしては減点せざるを得ないんである。犯人が殺しをやる動機にも無理があるし罪を他人になすりつける方法も杜撰で警察を騙せると思えん。何より狙った人間を必ず殺せる方法と思えず、無関係な他人を殺すことになったり巻き添えで余計な人間を死なせたりケガをさせたりといったことにおおいになりそうなやり方であり話の中で事実そうなっている。
 
これはちょっとダメでしょう、無差別殺人鬼でないならそのやり方は絶対しないよ、とやっぱり言うしかないのだ。銀座マリオンで22歳で最初に見た時から熱いドラマに心を燃やしながらもそう思っていたが対して『遙か』はトム・クルーズ主演と言うよりニコール・キッドマンとのダブル主演でメーテル女をニコールがずっと演じきっているし、彼女が彼に「土地」と言うところからクライマックスのレースに向かって物語が進む展開となっている。
 
そんなレースが行われたのは史実だと見てわかるから土地タダなんて有りかと言うことはできないわけで、だからやっぱりおれとしてはこっちが上ということになる。途中に銃での決闘とかボクシングの試合とかの見せ場もあっていいじゃん。『タイタニック』ともいろいろ似てるとこがあるけどいいじゃん。こっちの方が。あんな船が沈むだけの映画より。
 
と思うんだがどうなんだろか。あれに限らずディカプリオが演じる役など全部ろくなもんじゃねえ。農夫とか消防士といったまともな職の人間を一度でも演ったことがあるのか。ないよな。まして画家だと? んなもんはなあ、若いうちはまああよくっても歳を喰ったらヒトラーだとか帝銀の平沢貞通だとか、そういうもんになるばっかりで何をやらかすか知れやしねえよ。
 
ねえ。大体だ。もしあの船が氷山にぶつからなくてアメリカの港に着いたとしよう。あのふたりが仕事と安下宿を見つけて共に暮らしたりできると思うか?
 
いや、絶対にできそうに見えない。ディカプリオが演った役は男おいどんな感じじゃないもの。無理だよ。彼女より先にあいつの方が耐えられなくなり暴力をふるいだしたりとか、別に女を作ったりとか、何よりもまたギャンブルにのめって多額の借金をこしらえるか、汽車の切符でも巻き上げてどっか行っちゃうに決まってる。
 
だってあいつはそうやってタイタニックにも乗ってんじゃんか。だからあいつはああして海に沈んだ方が彼女にとってよかったんだよというのが結論てところで、この話を終えるとしよう。おれはそのうち〈救う会〉に放火されてボーンメラメラと焼け死ぬかもしれないとこだが、そうならなければまたこいつを更新します。てわけでまた。
 
 
 
作品名:ヤマト航海日誌8 作家名:島田信之