東京メサイア【初稿】
#3.モニタリングルーム
警視庁ミヤビモニタリングルーム(7:20)
壁面の半分が白いシェードをおろした無機質な一室
ブーンという低いモーター音
黄色いパトライトが回転している
5台のPCモニターの前に座る警視庁サイバー犯罪対策室主任の郡司胡桃
中央のモニターに映るステイタス画面を操作する郡司
左右の4台にはアグラ(格納庫)に配置された108台のタワー型コンピュータが様々な角度で映る
郡司の肩越しにモニターを覗きこむ警視庁公安部の駒木大輔
扉がスライドしてモニタリングルームに入室する国家安全保障局分析官桐山仁
駒木 「(桐山を見て驚く)桐山さん。どうして?」
桐山 「いや、状況を報告するためだ、上に」
桐山 「どんな具合ですか、郡司くん」
郡司 「桐山技官、それがさっぱり・・・」
桐山 「駒木、ズームを繋いでくれ。ITGに」
駒木 「はい」
天井懸垂の大型モニターにITG社の担当者石津淳紀が映る
石津 「おはようございます、桐山さん」
桐山 「おはようじゃないよ、石津さん。完璧なファイアウォールじゃなかったんですか」
石津 「それはもう世界中のどんなクラウドコンピュータのセキュリティにも引けを取りません」
桐山 「じゃあなんで外部持出禁止の情報が流出したんですか?」
石津 「それは・・・わかりません」
桐山 「わかりませんじゃ話にならない」
石津 「いえ、すぐ不具合を修正します」
桐山 「石津さん、そちらでもミヤビの状況は把握してらっしゃるんですよね」
石津 「はい、そちらのモニタリングルームと同じ画面をこちらでも」
桐山 「モニターしていて、おかしな動きとかに気づかなかったんですか」
石津 「はい、それが・・・」
桐山 「データを盗まれたのに、それを検知するシステムが作動しなかった、と?」
石津 「はい、不思議なことに」
桐山 「どうなってるんですか(憤慨する)」
伊達ファミリー(7:38)
スーツ姿で戸建ての玄関から出ていく伊達光雄
その背中に声をかける妻の伊達晴美
晴美 「パパ、行ってらっしゃい」
リビングのテーブルで遊ぶカズマ5歳
晴美 「カズマ、遊んでないで支度しなさい」
カズマ「ママ、きょうはお休みでしょ?」
晴美 「あ、(思いだして)そうだった。幼稚園からメールきてたんだっけ」
晴美 「エミリは?」
トイレから出てくるエミリ4歳
エミリ「うんち、いっぱいでた」
晴美 「ちゃんと流した?」
エミリ「うん」
晴美 「手、洗いなさい」
パンツをたくしあげるエミリ
都心ホテル併設結婚式場(7:50)
着付控室
ウェディングドレスを着て長椅子に座る愛子
ドレスの背中のボタンを縫い付ける着付係
手間取る着付係にいらつく愛子
愛子 「もう、高いレンタル料払ってるんだからね・・・」
着付係「はい。普通は飛んだりしないんですが」
愛子の脂肪豊かな背中
愛子 「試着したときより痩せたのよ。頑張って」
首をひねる着付係
愛子の傍らのスマホが鳴る
発信者名を見る愛子
愛子 「あ、彼からだわ。何かしら」
通話する愛子の表情が混乱から困惑へと変わる
愛子 「(大声で)まーくん、いま式をキャンセルしたいって言った?」
ドレスのまま立ちあがる愛子
取り付けたばかりの背中のボタンが弾け飛ぶ
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA