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東京メサイア【初稿】

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#18.ITG



都庁医務室(6:51)
ふたつ目の点滴袋がほぼ空になっている
点滴の注入を停める坂本
真緒の腕から点滴針を抜き取る坂本
目を閉じたまま小さく呻く真緒
ベッドサイドで椅子に座ったまま寝入ってしまっていた江藤
知らぬ間に真緒の手のひらに自分の手を重ねている江藤
真緒が再び小さく呻く
重ねた手を真緒が無意識に動かすと江藤の垂れていた首が持ちあげる
呻きながら重たい瞼を開く真緒

坂本 「ご気分がいかがですか、真緒さん」

大きく呻いて江藤の手を払いのける真緒
寝起きの目を見開く江藤
坂本の存在に気づく江藤

江藤 「坂本先生」

微笑で返事をする坂本

真緒 「痛いっ」

ベッドから起きあがろうとした真緒の左肩に痛みが走る
顔をしかめて左肩をさする真緒
心配そうに真緒を見る江藤

坂本 「(江藤に向かって)痛みを自覚できるのは良い兆しです」

ノックの音に振り返る江藤

八村 「知事、お時間です」
江藤 「何の?」
八村 「マラソン練習の」
江藤 「(驚いて)え、こんなときに?」
八村 「冗談です。すみません」
江藤 「バカ。目が覚めたわ」
八村 「今しがた和田副知事が戻られまして」
江藤 「和田さんが?」
八村 「お打ち合わせしたい事柄があるということで」

和田の帰還に安堵し固くなった腰をゆっくり浮かす江藤
医務室を出る前にベッドを振り返って

江藤 「真緒、坂本先生にちゃんとお礼を言うんですよ」

ベッドに倒れこんでそっぽを向く真緒


知事室(7:42)
知事室のデスクで和田から報告を受ける江藤

和田 「各自治体と緊密な協力を得たおかげで、都下の市町村において重大な混乱がありませんでした」
江藤 「そう。それはよかった。さすが和田副知事」
和田 「解除に向けて各区の状況把握を行いました。状況報告によると外出自粛を発令して約18時間、23区で顕著な事故や事件、大きな火災等はなかったということです」
江藤 「なかった? 多少はあったんだけどね。まあいいわ。それで?」
八村 「こちらが、解除までのタイムスケジュールになります」

知事デスクに行動予定を記したペーパーを広げる和田
朱線が引いてある知事の文字が多数箇所ある
うんざりする江藤


県境の検問所(8:07)
パトカーの前に警官Aが立っているだけで閑散としている検問所
黒く塗装された輸送車と黒のアルファードが検問所に停まる
双方とも車体にITGの文字がある
窓を降ろし近づいてくる警官Aに話しかけるITG職員C
警官Aに首からかけた身分証を提示する職員C
職員Cは浅黄色の長袖作業服に同系色のキャップを被っている
作業服にもキャップにもITGの文字

警官A「どうぞお通りください」

通行止め用にポールを移動させる警官A
輸送車に続きアルファードの運転者も身分証を提示して通過する


都庁舎職員駐車場(8:10)
駐車しているシビック車内
運転席で目をぎらつかせる織場
後部座席で横になって眠っていた招堤が目を覚ます

織場 「よく眠れたか、ショウタ」
招堤 「あ、ええ、少し。あれ、織場さんは起きてたんですか」
織場 「眠れなかった。昨夜のことを考えると」
招堤 「津曲ですよね。ひどい野郎です。真緒さんをあんな目に」
織場 「俺が言っているのは1億円のことだ」
招堤 「え? 津曲ではなく?」
織場 「知事が言ってたろ、1億円は知事の借金になるって。そんなことはさせられない」
招堤 「たしかに。それは気の毒ですけど」
織場 「1億円を取り戻す」
招堤 「どうやって?」
織場 「津曲を捕まえる」
招堤 「いや、順番が逆」
織場 「ショウタ。1億円あったら何する?」
招堤 「1億円? そんなお金・・・」
織場 「俺はな、もし1億円が手に入ったら警察を辞めて故郷の鹿児島にカフェを作るつもりだ。錦江湾を見おろす高台にな。そんで小さな畑で無農薬野菜を」
招堤 「何、言ってるんですか、織場さん」
織場 「なに、夢だ。夢。それじゃ行くぞ」

にやけた笑みを浮かべシビックを発進させる織場


都庁放送用ブース(10:33)
演台に置いた原稿を読みあげる江藤

江藤 「都民の皆さま、こんにちは。都知事の江藤です」

カメラクルーのスタッフがダメ出しをする

スタッフ「知事、もう少し明るく、晴れやかにお願いします」

口を尖らせてふてくされる江藤


警視庁モニタリングルーム(11:25)
タワー型コンピュータが108台立ち並ぶアグラ
臨時で設置された照明機器によりある程度の照度は保たれている
ミヤビのシステム入替のため浅黄色の作業服を着たITG職員が多数立ち働いている
モニタリングルームからその光景を見守る桐山と駒木
石津が入室する

石津 「オンタイムに進んでいます。予定通り11時40分に通電してもらってOKです」
桐山 「大丈夫なのか」
石津 「システムは初期化してあります。ミヤビのAIはもう存在しません」
駒木 「(郡司に)郡司、じゃあ、手筈通りに」

駒木の指示を受けて郡司が退出する
警視庁舎の屋上から照明弾が一発打ちあがる
しばらくしてモニタリングルームの照明が全点灯する
駒木がPCを立ち上げ直す
ホール内の照明も回復し空調設備が稼働を始める
モニターに映る数値やグラフを駒木とともに確認する石津

石津 「問題ありません」

うん、と頷く桐山
無線機を取りだし職員Cと通信する石津

石津 「問題ありません。撤収してください」
職員C「撤収了解しました」

作業員に撤収を呼びかける職員C
ホール中央の防弾ガラスで囲まれたタワー型コンピュータの前で作業する相良秀彦
サーバーと相良が膝に開いたノートPCがケーブルで繋がっている
職員Cが残って作業している相良を見つける

職員C「おい、何やってんだ。撤収だ」

サーバーのパネルのねじを締める相良
工具類でカムフラージュされたショルダーバッグを肩にかける相良

相良 「終わりました」

安心した表情の駒木、桐山、石津

駒木 「ところで第4シールドの解錠を許可した人物って判明したんですか」
石津 「ああ、そのことなんですが・・・」
駒木 「どうしました?」
石津 「先端技術センターで富岳を使って検証してもらったのですが」
駒木 「ん?」
石津 「解錠を指示したコマンドが見つからない。それどころか第4シールドにアクセスした形跡すら見つからなかったらしいです」
駒木 「え? どういうことですか」
石津 「つまり第4シールドに解錠を命じた者はいなかった」
駒木 「じゃあどうして?」
桐山 「解錠のプロセスは実行されていなかった、と」
駒木 「いやいや、でも見たでしょう。カウンターゲージが98%・・・」

駒木の表情が固まる

石津 「バグかもしれません」

顔面が崩壊するほど衝撃を受ける桐山

桐山 「バグじゃない。カウンターゲージはフェイクだったんだ」
駒木 「犯人はシステムが入れ替えられることを予見していた」
石津 「では・・・?」
桐山 「ハッキングではなく直接ミヤビからデータを抜く」
石津 「しかしそんなこと」

ホールの映像をチェックする駒木
ホールから作業員は全員撤収して無人である
作品名:東京メサイア【初稿】 作家名:JAY-TA