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狂犬病をうつされたけど私は大丈夫

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「何か言いたいことがあればどうぞ」裁判官から促されて私は立ち上がった。
「動物検疫所は間違っています。狂犬病予防法も間違っています。家族同然の動物を引き離すことは憲法違反です。私は悪いことはしていません。ミーコを返してください」と言ったが、途中から唇と舌がしびれて最後は言葉が回らなくなった。よだれが出た。手が震えて止まらなくなった。
 狂犬病の症状じゃないか? という声が傍聴席から出た。
「猫からうつされたんだ。早く医者を呼べ」という声が聞こえた。
 退席を促されたが首を振って拒否した。警備員に取り押さえられようとしたので、素早く身をひるがえしてその手に噛みついた。
「私もミーコもそんな病気ではありません!」
 私は声にならない叫び声をあげながら法廷内を走り回った。
「噛まれないようにしろ! 飛び散った唾液からも感染するかもしれないぞ!」
「逃げろ!」
 傍聴者や裁判員が悲鳴を上げて法廷から逃げ出した。
 ガチャン! ガチャン!
 パイプいすが次々に倒れる音が響いた。自分が人々の中心にいて人々を動かしているという感覚がした。自分の人生に足りないものはこれだったのか? でも、もう遅いかも。
 私は警備員に再び取り押さえられ、言葉にならない咆哮を撒き散らした。
「私は私らしく生きたいだけなんです!」
 顔を上げると黒い法衣を着用した裁判官が一段高いところから私を無表情に見下ろしていた。まるで青銅のシヴァ神像のように。

注)猫における狂犬病は潜伏期間が人や犬よりも短く、通常2-3週間で最長51日間と言われています。ストーリーと矛盾していることをお詫びします。