夢幻空花なる思索の螺旋階段
辺りは闇また闇である。この闇の中の《浮島》で蹲る吾は一体何なのだ。再び辺りの闇に異形の吾の顔が次々と浮かんでは消えて行つた。
――嗚呼、吾は闇なるか、それとも自存する闇体へと変容を遂げてしまつたのか?
と、その時辺りの闇全体がぶるつと身震ひしたのであつた。
――闇体だと! すると闇たる吾は何なのだ!
――闇たる吾? おかしいじやないか! 闇のお前も吾と己を規定するのか? お前は無限を飲み込んだ何ものかじやないのかね?
――ぬつ、無限もまた無限であることに我慢がならぬ……。
――無限が無限であることに我慢がならぬ? 異なことを言ふ! もしや、闇たる無限のお前にも自意識が芽生え始めてしまつたのではないか?
――ぬぬぬぬぬつ。吾なる概念を無限の中に抛り込んだ筈なのに! 吾は吾たらうと闇の中で蠢き出すのだ!
――吾が闇の中で蠢き出す? これまた異なことを言ふ。もしや、無限のお前もまた無限であることに我慢がならずに何かへ変容したがつてゐる。はつは。それでブレイクは無限を火の玉に封じ込めやうとしたのだ。それでも無限は無限の殻を破らざるを得ない。へつ、それで前は《吾》へと変容したのか?
――けつけつけつ。闇の《浮島》に蹲り吾すら解からぬお前に何が解かる! さつさと《吾》に変容し果せてみよ。
辺りは闇また闇であつた。
――嗚呼、闇でない《吾》とは一体何なのか! 《吾》は果たして《吾》なるものなのか!
それ以降、唯唯深い深い苦悶の沈黙が永劫に続いたのであつた。
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作品名:夢幻空花なる思索の螺旋階段 作家名:積 緋露雪