Cloak
わたしはスマートフォンをポケットから出して、言った。
「大丈夫」
ずっと立ち上がっていた動画アプリの録画終了ボタンを押すと、わたしはスピーカーの音量を上げて再生した。礼子の声は、最後まではっきりと入っていた。
「これ聞かせたら、警察が調べてくれると思う」
今、二人で『だんご岩』から飛び出している。ずっと、こうしたかったのかもしれない。わたしは、肩から腕にかけて斜めに走った傷口に触れた。血は、まだ流れ続けている。緊急ダイヤルの画面を出したとき、幸平が言った。
「治療してもらったら、その後はどうするんよ?」
わたしは窓の外を眺めながら、そこに映り込む、青白い割りに思いのほか活気に満ちている自分の顔を見て、乾いた苦笑いを浮かべながら言った。
「どっか行こうよ」
ずっと借り物みたいだった人生。でも、もう誰にも代わってもらいたくない。これを生きられるのは、上手い下手は別にして、結局このわたしだけだ。そして、この腕から血を流している理由を理解できる唯一の人が、今は隣でハンドルを握っている。
もちろん、頭の中で後手後手に暴れ回る生存本能は、相変わらず『死んだりしないよな?』と慌てている。でも、いつもの皮肉めいた雰囲気はなく、その口調は切実だ。
だから、忘れてしまうぐらいに久々だけど、こっちだって本心で答える。
絶対に、生きてみせると。