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小さなサムライそしてシュバリエ

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「簡単なことよ。泣きたくなったら歯を食いしばって、けつの穴を思い切り閉じて泣かないようにするだけよ」
 私は立ち上がった。身体を回転させて左足に言った。
 やっちまえ!
 踵が弾丸のように側頭部にヒットした。サバットのフェッテ(回し蹴り)。
 彼女が目を覚ましたのはプジョーの後部座席。両脇には汗臭いTシャツの男性従業員が座っている。運転する私は声をかけた。
「駅まで送っていくから、もう二度とここに来ないでね。二日分の賃金を渡すから、領収書にサインして。そもそもフランスに来てアベセデすら覚えようとしないなんてふざけてる。フランス人だって人間なのよ。あんたはいい加減な仕事をして私たちの夢をぶち壊しにするところだったのよ。わたしたちはワインに命を懸けているの! 今の日本人より勤勉で誇り高い労働者なの! しかも腹いせに子供に暴力ふるうなんて最低! ちょっと、聞いてる?」
 その時、彼女は、
「あ! あれは何?」と大声を上げた。
「何度も見てたじゃないの。原発に決まってるでしょ。フランスのローヌ川流域には原発がたくさんあるのよ」
「そんな馬鹿な! 原発は海岸線に造るもんでしょ? 私は原発が大嫌いなのよお!」
「敵の攻撃とか津波を受けやすい海岸線に原発を作るなんておバカな国は日本だけ。世界中の笑いものよ。そんなことも知らないの? フランスは国民の命を国の基本だと思っている普通の国。日本は天皇一人が生き残ればハッピーという異常な国なの。そんなに原発が嫌いならドイツに行けば。ドイツには原発がないわよ」
 彼女は悔しい、腹が立つ、とつぶやき続けた。次は同情を乞うようにめそめそと泣き始め、泣き止んだと思ったら大声で叫んだ。
「もういやー! 日本もフランスも絶対に許さない。ドイツに行って、私より幸せに暮らしている日本人を見つけて世話になってやる」