令和七年随想録
その4
「もしもし、私笹峰霧子です。先日の会に行けなかったもので、丸子ちゃんが電話するように言うもんで。大人になられたお顔をひと目見たかったのですが残念でした!」
「そちらで会があったら、今は退職してますから飛んで行きますよ」
電話の向こうから気持ちの良い言葉を聴けた。
三年間同じ教室の横の席に座っていながら話をしたこともなく、真正面の顔を見たこともなかったそのお方である。
ただ彼が同学年で一名だけ東大に入学したという噂を聞いていた。
大人になった彼の顔が見たいというのが、会に出る愉しみでもあった。
他の男子の何人かは地元に居て、噂を聞いたり、ご縁があって話したりもしたが、その方の噂をする者はひとりもいなかった。
不思議なその方の存在であった。