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積 緋露雪
積 緋露雪
novelistID. 70534
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蟻地獄~積 緋露雪作品集 Ⅰ

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 《そいつ》は再びいやらしい嗤ひをその相貌に浮かべ、ぎろりし私を睨み付けた刹那、不意とその気配を消したのであった。
 さうして独りぽつねんと此の世に残された私は、しかしながら、只管、《吾》から絶えず遁れ行く《吾》の何ともやり切れない、《存在》する事の宿命といふ《もの》を考へながら、しかし、其処にまた、
――何とでも為れ!
 と腹を括ってゐる私が、私の内奥にちゃんと《存在》する事を知ってもゐるので、《吾》の《存在》に一時は狼狽へつつも、肝が据わった有様で私はゆっくりと瞼を開けたのであった。
――世界に対峙する《吾》、そして、《吾》の内奥に仮象の距離を持って棲まふ《異形の吾》に対峙する《吾》は、絶えず現在に取り残されてゐる。世界、此の私の眼前に拡がる此の世界は全て、過去か未来であって、現在にあるのは世界広しと雖も、独り《吾》のみといふこの孤独は、《存在》全てが担ふべくあり、それを心底味はひ尽くさねばならぬ悲哀に違ひないのだが、さうであるが故に《吾》は、《吾》の《存在》を心の何処かでは信じ切ってゐて、《吾》はその信頼なくしては一時も存続出来ぬのも、また、真実に違ひない。……ならば、此の《吾》は何とするや――。
 そんな事をうつらうつらと考へながらも、私は、眼前に拡がる世界を尚更見透かすやうに凝視しては、《吾》といふ《もの》が背負ふ現在の重さに圧し潰されつつも、その現在の足下で何とか息をして、此の世を生き延びる《吾》のその屈辱をぢっと堪へつつ、私は私の心の深奥では、
――《吾》、此処に在れりし!
 と、《吾》の《存在》を快哉するやうに、私は、私の《存在》を愛おしく思はずにはゐられなかったのであった。
――世界、若しくは神は、《吾》を現在に《存在》する事を許せしや。
 多分、世界、若しくは神は、《吾》が此の世に《存在》する事に全く無頓着な筈で、それ故に《吾》の懊悩は底無しの深淵となって、吾が胸奥にぽっかりとその口を開けたまま、未来永劫に塞がれる事無く、私が此の世に《存在》する限り、その懊悩の深淵は《吾》に寄り添ふぬやうに必ず《存在》する代物に違ひなく、世界は、即ち、底無しの深淵の別称に違ひないと、私は心底思ひ、暫く眼前の世界を眺めながらこの《吾》が《存在》する事の懊悩と不思議を私はじっくりと味はってゐたのであった。
(完)

[緋積1]第4話
[HS2]
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