テッカバ
ぐいっ、と上を向いて残りのジュースを飲み干す唄方くん。空になった缶を器用に潰すと、適当に後ろに投げる。そして見てもいないのにちゃんとゴミ箱に入る空き缶。
結局運が良いんだね、この人。
はぁ……うらやましい、と私はため息を吐く。
「でもね、黒御簾さん。偶然ってのは結局元を辿れば必然なんですよ。偶然はその間を繋ぐだけです」
……そうかもしれないな。
かりんが高槻を殺す羽目になったのも、今私たちがあの絶望的な状況を抜けてここに居るのも、きっと必然から偶然が連鎖した結果なのだ。
多分、私とかりんが出会ったのも広い世の中のどこかであった必然の結果なんだ。後悔なんてしたらその間を繋いでくれた偶然たちに申し訳ない。
もう一口コーヒーを飲む。やっぱりほろ苦くて、ちょっぴり甘い。
「だからね黒御簾さん。ため息なんてしてると素敵な偶然を逃がしちゃいますよ?」
いつの間にかすぐ隣に来た唄方くん。生意気な目つきで相変わらず後ろ髪は跳ねている。
この運だけは良いバカ探偵と出会ったのも、大切にしなきゃいけない偶然なんだろうな……。
残り少ないコーヒーをゆっくりと味わう。唄方くんの真似をして空き缶を放り投げてみると、背後でゴトンという音がした。ジャストミート。
「なんだ。私も案外運が良いじゃない」
きっと私たちが今日繋いだ偶然は、きっとどこかでまた必然を作り、誰かと誰かの間を偶然で結ぶだろう。
ずっとずっと。そうやって繋がっていくんだ。
大学を少し離れた裏道。そこを通りかかった唄方の前に立ちふさがる者が居た。
「ああ、九谷さん。さっきは大学の封鎖、ありがとうございました」
九谷と呼ばれた女性は赤のベストに黒い短めのスカート、蝶ネクタイという明らかに目を引く服装。それも仕方のない事。それが彼女の制服だからだ。
「お礼なら要らないわ。クラブの9のナンバー持ち、ディーラーとして当然の仕事だから」
ダメな子供を見守る教師のような笑顔を浮かべる九谷。
そう、彼女は鉄火場の職種の一つ、ギャンブラーの活躍を陰で支える実働部隊「ディーラー」の一人なのだ。先ほど唄方の指示で大学の門を封鎖したのも彼女とその部下である。
「それより、どうするの? スカウトする予定だった教授は死んじゃったんでしょ?」
「それなんですがね……良い代役を見つけたんです」
「代役?」