テッカバ
始めは誰の声だか分らなかった。それ位その声は切羽詰まって、必死で、残忍だった。
カチャ……
銃の安全装置をはずす音がした。
私と警部が振り向くとそこに居たのは、こめかみに銃を突きつけられた唄方くんとその銃を持つかりんだった。あの銃……唄方くんが警部に借りて、わざわざかりんの手元まで持ってきたのじゃない……
「こんな結末、認められない! 自分のドジで捕まるなんて、私のプライドが許さない!」
怒りでガタガタと体を震わせながら、今にも引き金を引こうとするかりん。
「かりん!」
「動かないで!」
より一層強く唄方くんに銃口を押しつける。私は伸ばしかけた手を空中で止めた。
「彼を人質に逃げられるとでも思っているのかね?」
相変わらず落ち着いたままの信楽さん。
多分彼の今の発言の意図は「警察として逃がさんぞ!」じゃなくて、「そのバカに人質としての価値はないぞ!」なんだろうな、きっと。
当の唄方くんは「困ったなぁ」と後ろ髪をいじってる。果たして彼に危機感というものは存在しているのかどうか……。
「そうね。でも『推理に失敗して逆ギレしたギャンブラーが、警官の銃を奪ってその場に居た人間を射殺! 奇跡的に一人の女子大生は軽傷で助かった』、なんてシナリオならどうかしら?」
早い話が皆殺しじゃないか! 自作自演もいいところだ。
でも、鉄火場や今の政権に反対する人たちなら信じるかも。
……ッチ!! どうする? この状況。
「あの……そろそろトイレ行きたいんですけど」
「お前は黙ってろ!」
何故か警部と私、かりんの三人でハモって唄方くんに突っ込んでいた。