テッカバ
女と言うのは見た目よりかなり頑丈にできていて、ほとんどの面倒事は山が過ぎるまで誰にも悟らせない。自分の中で整理がついて、口外しても自分が不利益を被らなくなるのを見計らって親しい友人間の雑談のタネにして完全に処理を終える、そんな精神衛生を保つサイクルが本能的に女には備わっている。
私が大学に入学してから最初に出来た友達、柘植(つげ)かりんは、しおらしいながらもしっかりした娘でそういったサイクルを働かせているはずだった。つまり尋常ではない何かに彼女は巻き込まれているわけで、そんな彼女に「大丈夫?」などと言ってしまった自分が嫌になる。私は妙に無神経な所が昔からあるのだ。
「ごめんなさい……由佳……助けて」
擦れた声で目に涙を溜めながら言う彼女を、誰が助けないでいるだろうか?
初夏の温かな日差しの中、微かに震えるかりんの肩を支えて私は人目に付かない場所を探した。
「高槻教授なの……」
広い大学敷地の端にある木陰のベンチで私の隣のかりんは打ち明けだした。
彼女が言うには次の通りである。
私たち一年生はまだ必修課程を履修中でそれぞれの教授が持つゼミに参加することは出来ない。しかし見学をすることは可能で勉学熱心なかりんは春先から暇を見つけてはあちこちの研究室を回っていた。
そして昨日行ったのが高槻教授の研究室。研究内容に大いに興味を持った彼女は教授や先輩のゼミ生とすっかり話しこんでしまい、そのまま彼らの飲み会に同行してしまったという。
当然ながら入学したてのかりんは十八歳。飲酒は違法で彼女もジュースやウーロン茶で付き合っていたのだが、次第に周りの者が酒を勧め出した。
ゼミを熱心に回る辺りからも分かるようにかりんは真面目な娘だ。適当にあしらって断っていたが、始めこそ冗談混じりだった勧めも段々と命令口調に、最終的にはほとんど脅迫だったという。
「良いから黙って飲め」教授にまで強情な姿勢で酒を差し出された彼女は飲んでしまった。そしてその瞬間を狙って携帯のカメラを構えていたゼミ生に撮られてしまったのだ。
「今日の夕方研究室に一人で来い、って……言うこと聞かなきゃ学校と親に画像を見せる……誰にも言わずに言うことを聞けば許してやる、って……」
……あのエロ親父め! ……
その瞬間だった、最初に「死ねば良い」と思ったのは。