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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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メイド女房アフリカ滞在記

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 「いや、君が嫌いなんじゃないよ。君みたいな性格が嫌いなんだよ」
 「同じことでしょうが」
 「ほんと辛かったもんなー。辛かったでしょ?」
 「そりゃあね。嫌われ続けてたんだし」
 「君と合う男って一体どんなだろ。そんな人いるの?」
 「失礼ねえ。あなた以外ならそこそこ合うわよ」
 「例えば、隣の田中とか?」
 「うーん、彼はちょっと違うかな。とにかくあなたとは正反対な人でしょうね。私を導き、自分で責任を持って決断できる。まあ誠実さとか意志の強さとか優しさとかのある」

 「知り合い二人に聞いたけど、単なる性格の不一致による協議離婚では金払う必要はないんだよ」(おいおい、単なる性格の不一致じゃないってことがわからんのか。セックスレスは婚姻を継続しがたい重大な事由なんだぞ、ということを、美琴はこの時点ではまだ詳しく調べられていなかった)
 「でもね、私にお金を任さなかったとか、半年間何もなかった、というのは訴訟になりうるのよ」
 「ならこっちだって出しゃばって僕の体面傷つけたとか、言うことあるよ」
 「性の問題ってそんな簡単なことじゃないわよ。とにかく私だって穏便に対処したいわけ。お金のこと今言える?」
 「早くすっきりさせたいでしょ」
 「そりゃそうだけど、会社から留守宅手当三か月もらってもいいし、手間と時間をお金にしてもいいし、それはあなたの気持ち次第よ」

 正弘は二十八日に電話を寄越すと言っておきながら結局電話してこなかった。それを二十九日になって電話してきてまたぐちゃぐちゃ言ってくる。彼は自分がどれだけ美琴を追い詰めていたか全く理解していないし、これ以上何を話しても彼には通じない。結局永遠に平行線のままで子供の喧嘩になってしまう。
 わかってくれてこそ、金をもらって解決と思っていたが、わからない人からもらった金なぞもはや無意味。そんなはした金なぞ受け取るな、と美琴の親も言う。
 愛もないから憎悪もないが永遠の平行線は疲れるだけ。理解してもらえない話をしてももはや時間の無駄。もう金輪際かかわりたくない、と思うに至り、美琴は
 「とにかく、金はもう要らない。それより今すぐ役所に行って紙をもらってさっさと送って!」
とだけ言ってすべてを断ち切るように電話を切った。

 十二月一日に離婚届が送られてきたので、美琴は速攻で記入し印鑑を押して区役所に持っていった。帰りに証明書と結婚指輪を郵便局から書留で送り、これで彼にかかわる全てが終了した。
 三月十五日から十二月一日の八か月と半月。結婚していたというよりメイドだった、否、ほぼ奴隷だったエイトハーフマンセズ。アフリカにいた163日。
 
 区役所をでて見上げた青空には黄色く色づいたイチョウ並木が映える。冷たい風が心地よい。ここには秋があるのだということを美琴は改めて実感した。
 やっとまともに時間がめぐりだした気がする。
 この日は私の奴隷解放記念日、空を見上げながら美琴は思うのだった。



<27.後日譚>
 
 後にラガの友人が電話や手紙で教えてくれたこと。
 美琴が送り返したダイヤの立爪リングを「母親が喜んでしてますよ」と前夫は職場の人らに言っているらしい。
 セックスレスは美琴が拒絶したから、という話になったらしい。(ああ、やっぱり。そもそもお誘いがなかったし拒絶したのは離婚話が出た後の最後の一回だけなのだが)
 あいつの仕事の仕方は大人じゃない、と仲が良かったはずの他社の友人が言っていたらしい。
 
 美琴は今までいた場所と二駅離れた物件に引っ越した。ハローワークに行ったが、やはり一か月以内に手続きしていないと失業保険はアウトだった。銀行口座からクレジットカードからあらゆる名前の記されているものの改名届をする。家賃用の銀行口座を作ろうとしたが身分証明が必要で、現時点何も持っていない美琴は住民票を取りに行くしかなかった。住民票には前住所が「ラガ市」と記載されていた。
 離婚した場合、改名がないだけでもつくづく男は楽でいい。あいつにいわれせりゃ体面がどうこう、だが、それはお互い様だ。少なくとも名前も、仕事も、住むところも失わないではないか。
 
 新聞の求人欄を毎日端から眺め、ハローワークに通い、求人誌をめくり、面接のあとの空いた時間つぶしに映画を見たりする日々も気楽ではないが、自由という代償には代えられない。なんといってもお金が自由に使えるし、この時不景気な日本ではラガで一箱五百円だったクリネックスの五箱セットが四百円くらいで買えるのだ。
 帰国後は新聞の国際欄に関心が行くようになった。特にアフリカのニュースをつい読んでしまう。あの大陸では相変わらず紛争が止まず、近隣の国では危険な感染症が拡大していた。日本がいかに安全な国か。
 ただ、あの大陸を不穏な土地にしたのはそもそも植民地支配のせいではないのか。あくどい搾取の結果、独立後も宗主国にされてきたことを真似て絞れるだけ搾りとろうとする体質になってしまったのではなかろうか。公務員がダッシュを要求するような腐敗政治が続くようでは問題山積だろう。
 とはいえラガの空港で出会った日本語堪能な青年のような人もいるのだから、あの国も変わっていくのかもしれない。
 あれはあれで面白い経験ができたと思うし、あのツアーガイドには感謝しておこう、と美琴は初冬の澄み渡った空をみながら思うのだった。