死神と魔法使い1
「エリック・アンダーソンは事故死。シャロン・ワイヤーが違法な蘇生術を試みるも失敗。その状況が、現地の警察には殺人に見えたと。シャロンは魔道士であることが広まって、既に村を出ています。それがある程度の制裁を受けていると判断されて、罰金刑で確定。即日支払ったそうですよ。エリックの妻レイチェルは、退院して別の町へ行ったそうです。丸く収まりましたね」
「丸いか?」
「十分でしょう。エリックの名誉は守られ、シャロンは痛くもない金額を支払って終わり、レイチェルは夫の財産と健康を手に入れて、好奇の目を向けてくる人々や古い価値観に縛られた実家から離れ、新生活を始めるのですから。小金持ちの未亡人ですよ? まだ若いですし、引くて数多でしょうね」
ルイスは手を広げて、「羨ましいですね」とつけ加えた。ヴィクトルは顔を顰めて、
「夫も親友も失ったけどな」
その言葉に、ルイスは首を傾げる。
「魔道士に一般人の親友なんて出来ません。夫のことだって、気づいていたんじゃないですか? でも、お互い様じゃないですかね。結婚式に招待するどころか、季節の挨拶すらしなかったのに、病気になった途端、頼りにするんですから。エリックとの結婚だって、納得していたかどうか」
「…………」
ルイスは立ち上がり、食器棚から二人分の皿とグラスを取り出して、テーブルに置いた。冷蔵庫を開け、オレンジジュースを取り出してグラスに注いだ。
「それと、レディからあなたに伝言です。次に来る時は、バナナケーキとチョコチップマフィンを持ってくるように、と。そのうち、お腹がつかえて歩けなくなりそうですね」
「怒られても庇わねえからな」
「庇ってください! 結局、僕だけ怒られたじゃないですか!」
「自業自得だ、馬鹿」
「酷い!」
ヴィクトルが皿にベーコンと目玉焼きを乗せ、冷蔵庫からサラダを取り出し、盛り付ける。ルイスは棚から丸いパンの入った籠を取り出し、食卓に置いた。
二人揃って席に着くと、ルイスは手を合わせて祈りの言葉を口にする。
ヴィクトルは横目でルイスを見つめ、神に罪人とされた魔道士ほど、信仰深いのはどうしてだろうと考えていた。
【続く】