ボクとキミのものがたり
「可愛いお話だね。てるてるぼうずを泣かせちゃったのは雨だれ?それとも…ん?」
ボクは、ふと気になることが浮かんだけれど、キミがいるときに 確かめるのはやめておこうと思いとどまった。
「はい」
キミの差し出す手の意味は何だろう?
ボクは、読んでいた包装紙をキミに渡し、頭をくしゃくしゃと撫でた。
「それだけ?」
ボクの迷った一文字の口は、にたりと歪む。
「うん、それだけ」
ふぅん…キミのつく溜め息に もう一度頭を撫でた。
「さてと、ご飯でも作ろうかな」
キミは、もうお腹がいっぱいになったと言い、部屋の時計を確かめると帰り支度をはじめた。
「えへへ、学生だもん。お父様と約束したこと守らないと会えなくなっちゃうから」
キミが、お父さんの会社の力になるように 資格や習い事を始めたこと。
その約束の中に ボクとの交際も認めて欲しいと願って頑張っていることを知っている。
「そうだったね」
そんなキミを 此処に引きとめることはできないな。
「じゃあ、頑張って。また息抜きにおいで。あ、それは頂戴ね」
ボクは、何を恰好つけているんだろう。安らぎと癒しをキミに求めているのはボクのほうなのに 男ってずるいな。と笑いが零れた。
小首を傾げ、不思議な眼差しで見あげるキミの唇に ボクは引き寄せられた。
キミの目元が優しい三日月のなり、引き締め微笑む口元は、小猫のようだ。
アヒル口が可愛いと言われたけど、尖がった唇よりも にゃぁんと啼いた猫の口元は可愛いじゃないか、と勝手にキミの顔を見ながら想像する。
キミを玄関まで見送って、扉を閉めた。
キミが、そう望んだから…また、来るね。じゃあね。…そんな言葉を何度も飲み込みながら、玄関までの空間に たくさんの想いが残っていた。
できることなら、この想いの空気を全部吸い込んでおきたいな。なんてボクは、自分でも可笑しくて笑った。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶