ボクとキミのものがたり
その所為ではないと思うのだけど、瞬く間に時間は過ぎてしまったようだ。
できれば、今 書くのを止めたくない。
キミは、退屈していないだろうか。
「……ん?」
「今 何時だろう?」
「三時半過ぎだにゃん」
キミは、図書館内のシンボルのようにある大きな時計を見て言った。
「シィ。そろそろ帰る?」
「しぃ。まだ いいよぉ。書いてる途中でしょ」
「うん。そう? いいかなぁ あと少し」
「うん、いいよん」
ボクは もう少しだけ書くことにした。
キミは、その絵本が気に入ったのか、何度も読み返していた。
「あ」
「どうした?」
「ううん、いいから続けて」
ボクの視野の端に 白い何かが 見えたり消えたりしたように感じるけれど、キミを待たせてばかりも気になり、早く仕上げることに没頭した。
「ほぉ」とか「クスクス」そのうち「クックックッ」とキミの声が変わっていくのでボクは、顔を上げた。
「あぁ」キミは、ボクではなく ボクの頭の上を見ているようだ。
ボクの視界に ヒラヒラと白いものが飛んでいるのがはいってきた。
「モンシロチョウ?」
「そう。やっぱりあのちょうちょ……窓から入っていちゃったんだよ」
「まさかと思ったけど 本当だったんだね」
「でもきっと、あれ?此処は何処? 帰り道がわからないって飛び回っていたのかな」
白いヒラヒラはボクに寄って来た。
「疲れ果てたように 頭の上にとまってたよ」
「え、ボクの?」
ボクは、まるで気づいていなかった。そうか、それでキミは笑っていたのかと知った。
「どうして言ってくれなかったの。意地悪だな」
「ククク」
「これこれ、また笑って、酷いなぁ」
「意地悪じゃないもん。せっかく羽を休めに止まったし、真剣に書いているし、どちらのお邪魔もしてないよん」
「わかった、わかった」
キミの膨れた頬を万年筆の後ろで突っついた。
「さぁて、と…、やっぱりそろそろ帰ろっかぁ」
「はい」
ボクがそう言うと、席を立ち、キミは持っていた絵本を棚に返しに行った。
キミが本を戻して帰って来るまで 広げた原稿用紙を手提げにしまいながら テーブルのところで待っていた。その間も ボクの頭の上を白い蝶はヒラヒラと飛び回っていた。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶