ボクとキミのものがたり
ボクは、そんなキミの気持ちなど知らない振りをして、借りたい書籍の棚に向かった。
館内は、土曜日なのに静まりかえっていた。
こんな良い天気の日だから 図書館よりも外に出かける人ばかりなのか、図書館というところは これが通常なのか 初めて来るボクにはわからない。館内には、目的の書籍を求めスタスタと歩く足音に混じって、何処からかピコピコと音が聞こえてきた。
近くに居ると思っていたキミの姿が ひょっこり目の前の棚の陰から現れた。さっきまでの蝶のようなキミが、足音を忍ばせる猫のように感じた。
キミの出てきた本棚の間の通路を覗き見ると 平たい円形の自動掃除機が動き回っていた。人が通ると 障害物と判断しては逸れていく。その動きを 興味を持った小さな子のようにキミは澄まして見ていた。
まったく不思議な空間だ。此処でなら ボクの想像は広がり何かが浮かびそうな気がしてきた。ひんやりとした空気も空調のせいかと思っていたが、ふと天井に目をうつすと 天気が良いからなのか、天井近くにある窓が開かれていた。
ボクは、背表紙を見ながら興味のある本を手にしては棚に戻した。まずは、目的の本を探さなければ始まらない。整頓された本棚の中から読みたい本を二冊見つけた。
キミはというと、一冊の本を抱えボクを待っていた。
「あ、待たせたかな」
キミは、にっこり笑って首を振った。
ボクとキミは、何処に座るかを決めていたかのように同じ読書テーブルへと向かっていた。
「此処でいい?」キミが先に言った。
ああ、ボクも此処がいいと思っていたんだ。と言葉には出さなかったものの、頷いて椅子に座った。
キミは、ボクの正面に座った。きっとボクが、原稿用紙を広げるからとの気遣いなのだろう。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶