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ボクとキミのものがたり

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何を買おうか。何でも良かった。なくても良かった。見ているだけ。目に映るだけ。

(あ、オレンジ)入り口からほど近い棚に並べられた果物の中にオレンジを見つけたボクは、手に取り鼻に近づけた。それがオレンジといえばオレンジで、みかんでもグレープフルーツでも他の柑橘系の果物と嗅ぎ分けなどできない。
ふと、辺りを見回した。良かった、誰にも見られてないだろうと思い、オレンジを棚に戻そうかと思った。
でも、欲しくなった。だけど、店内のカゴを持たずに歩いていたことに気がついた。
オレンジを二つ手に持って、入り口付近に置かれていたカゴを取りに行った。

結局、お惣菜コーナーで 出来あいの弁当をひとパックとオレンジを二個買って、ひとり部屋に帰った。
帰り道、気持ちに隙間風を感じながら、暖かな陽射しは、ボクの背中に汗を感じさせた。

ポケットに突っ込んだ鍵を引っ張り出し、ロックを開けるボクの手首で 白いショッピング袋が揺れている。
「ただいま」
一人帰る部屋は、なんだか寒い。リビングも こんなに広かったかな。もう住み慣れた部屋なのに 借りた頃からときどきキミが居たからか そんなことを改めて感じた。

「さてと、キミが戻ってくるまで、ボクもしっかり気合入れないといけないな」
先日までの慌ただしさを忘れ、原稿に向うボクが居る。
久し振りに 手に取る万年筆はボクの気持ちを知っているかのように 滑らかな書き味で原稿用紙の上を走ってくれた。

書きたい気持ちが溢れてくる。
書きたい言葉が浮かんでくる。

書いている後ろからキミが何か仕掛けてくるような気配を感じたい
なんてことを思い浮かべながら、キミの帰りを待っている。
ただそれだけなのに……。

淋しいよう

     ― Ω ―


作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶